<株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 大曲 義典/PSR会員>
コロナ禍も含め、厳しい環境にある経済社会において、自社内での働き方や学習・研修にとどまらない「越境学習」が注目されている。働き方改革による兼業・副業に対する規制緩和、在籍出向の概念の捉え直し、人生100年時代におけるリカレント教育の推進、なども「越境学習」への後押しとなっている。
越境学習の必要性
ここまで各企業が、「越境学習」に注目し、すでに取り組みを始めているのには理由がある。それは、世界の先進企業からの「引き離され感」と「Going Concernへの不安感」だろう。日本経済の黄金期を象徴的に表す言葉として「Japan as Number One」(アメリカの社会学者エズラ・ファイヴェル・ヴォーゲルの著書名)が使われたりするが、この時代には、日本が世界をけん引していた。著者のヴォーゲルによれば、日本の高い経済成長の基盤になったのは、日本人の学習への意欲と読書習慣であるとしている。日本人の1日の読書時間の合計が米国人の2倍に当たること、新聞の発行部数の多さなどにより、日本人の学習への意欲と読書習慣を例証している。そして、日本人の取り組みをアメリカへ促してもいる。現在とは、全く立場が逆転していたわけである。
越境学習とは?
「越境学習」を定義すれば、文字どおり「現在地から境界を越えて学ぶ」ということである。境界とは、自分の心の中で、ここがHomeと思う場所とAwayと思う場所である。そのHomeとAwayを行ったり来たりして、Homeに好影響を及ぼすことが「越境学習」のアサインメントである。
Homeとは、周りに知己が多くいて、組織内言語もよく通じ、安心できる環境であるが刺激が少ない場所、平たく言えば「自社」のこと。Awayとは、周りが見知らぬ人ばかりで、組織内言語も通じないことがあり、心なしか居心地は悪いが刺激を受けられる場所、「他社」のことである。なお、「自社」「他社」と表現したが、その形式に囚われる必要は全くない。例えば、もっと狭い範囲で、つまり自社内の「自部署」「他部署」と表現しても、その主旨は変わらない。
越境学習の取り組み方
要は、この「越境学習」の推進で有為な人材を育成し、社内でイノベーションを促そうということなのである。企業によっては、イノベーションらしき「プチイノベーション」を企図することもあるだろう。イノベーションに必要とされるコンピテンシーは、現状への課題を的確に捉えたり、問題点を提起したり、異分野の経験したことのない取り組みを体験したり、多様な人とのネットワークを築いたり、することである。それによって獲得した「外の価値」を社員が獲得して取り込めば、組織全体をイノベーション体質に変化させることができるのである。Awayで他流試合を経験すること、それによって人材の付加価値を高めることで組織開発に繋がるのである。
組織というのは、何らかのムーブメントがなければ、すぐに陳腐化してしまう。換言すれば、何も起こらなくなってしまう。意図的にムーブメントを起こし、イノベーションにつなげるには「越境学習」が極めて有効である。その手法には、典型的なものとして「副業・兼業」や「在籍出向」がある。ただし、これらを導入する場合に、「越境学習」の主旨を十分に理解しておかないと、無駄に終わってしまうことになる。大切なポイントは以下のとおりである。
①越境学習先は、自社と組織風土が異なる他社を意識的に選定すること
②越境学習先は、同業他社ではなく、異業他社を選定すること
③越境学習する社員の選定は、多様な属性からバランスよく行うこと
越境学習がイノベーションを起こす
越境学習は、あくまで自社内でイノベーションやプチイノベーションを起こすための人材育成、組織開発である。この理念をしっかり共有しながら具体化していかなければならない。下図は、弊社のコンサルティングで使用するDX(デジタルトランスフォーメーション)の概念図である。目指しているのは「既存の分野」の生産性向上と「新しい分野」の創業(イノベーション)である。これからの時代を見据えれば、賛否あるにしても、このような経営戦略が企業規模にかかわらず必須であろう。
また、コロナ禍を契機として一般化した「在宅勤務」(テレワーク)の効率性や弊害を感じている企業も多いのではなかろうか。しかし、「在宅勤務」も取り組み方によっては「越境学習」と成り得る。ただ、これまでの延長線をトレースしても上手くいかないため、その枠組を「越境学習」の主旨に沿って新たにデザインしなければならない。
プロフィール
社会保険労務士 ファイナンシャル・プランナー(CFP®) 大曲 義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ