【組織リーダーの若手社員育成術】第4回 仕事で若手人材を成長させる法

公開日:2024年2月6日

【組織リーダーの若手社員育成術】

第4回 仕事で若手人材を成長させる法


<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>

若手社員を育成する上で重要なポイントの一つは、どのような仕事を与えるかにある。業務・課題の与え方次第では、若手社員のビジネスパーソンとしての能力を開拓し、大きく成長させることが可能だからである。

ただし、単に仕事を命じるだけで、能力が無条件に伸びるわけではない。そこで今回は、仕事を若手人材の成長機会とする仕組みを考えてみよう。

 

仕事とは「成長を加速させる仕掛け」である

リーダーが部下に仕事を命じることにより、企業はどのようなメリットを享受できるだろうか。もちろん、個々人の役割が完遂された結果として売上・利益が増加し、経営目標を達成できるという側面はあるであろう。しかしながら、リーダーが部下に仕事を命じるメリットは他にも存在する。部下の成長を促進できることである。

仕事には携わる者の「ビジネスパーソンとしての潜在能力」を引き出す機能が備わっている。そのため、部下に適切な仕事を与えることができれば、当該部下のビジネススキルが開拓され、組織の次代を担う人材にもなり得る。

つまり、リーダーが部下に仕事を命じる行為は、部下の職業人としての成長を加速させ、企業の持続的成長・発展を可能にする“大きな仕掛け”といえるわけである。

ただし、単に仕事を命じるだけで、部下の能力が自動的に引き出されるわけではない。当該部下にとって「能力向上効果の高い業務」を選択し、提示する必要がある。従って、仕事を部下の成長機会として機能させるには、命じる業務内容に工夫が必要といえる。

 

「過負荷の原理」がビジネスパーソンとしての成長を促す

若手社員にとって「能力向上効果の高い業務」とは、どのような業務だろうか。いろいろな考え方があるが、ぜひ理解したいのは「達成が容易ではない業務」が当該社員にとっての「能力向上効果の高い業務」となり得る事実である。

すでに円滑に遂行できている業務を同じ方法で日々繰り返すだけで、若手社員のビジネススキルが飛躍的に伸びることはない。また、新しい業務・課題を与える場合にも、若手社員が簡単に成し遂げられるレベルの内容では、当該社員のパフォーマンスの向上は期待しがたい。

種々の創意工夫が必要になるなど一定のハードルをクリアしなければ完遂できない業務を与えると、業務に取り組む過程が当該社員の能力を引き出す過程となり、当人の成長に繋がる。このように、通常よりも負荷の大きい課題を与えることで、パフォーマンスの向上が実現できる仕組みを「過負荷の原理」という。

なお、難易度は高ければ高いほどよいわけではない。若手社員が努力すれば達成できる程度の難度が必要となる。

 

自己成長に役立つ「リインタープリテーション」の指導も

ただし、通常よりも難度の高い業務を与えると「課長に面倒な仕事を押し付けられた」などとマイナスに捉える部下がいることがある。そのような心持ちで業務に取り組んでも、パフォーマンスの向上は期待できない。「過負荷の原理」の効用を享受するには、部下が「よし。大変そうだけど頑張ろう!」と前向きな気持ちで業務に取り組むことが必要になる。

そのためには、部下に対して「自己成長に役立つ思考様式」を指導しておくことが有用である。具体的には、自身にとって一見マイナスと思われる事象に直面したとき、その事象のプラスの側面を探し出し、自身に対する意味付けをプラスに変える思考技術である。このような思考を「リインタープリテーション(再解釈)」などという。

どのような物事にも、プラスとマイナスの両側面が備わっているものである。しかしながら、人は往々にしてマイナスの側面ばかりに着目してしまう。上席者から通常よりも難度の高い業務を命じられた場合も「難しい仕事を命じられた」というマイナス面ばかりに着眼し「課長に面倒な仕事を押し付けられた」などと考えがちである。その結果、せっかくの成長機会を十分に活用できない。

しかしながら、「経験値を増やすチャンスが巡ってきた」などのプラス面に気付ければ、自身に対する意味付けをプラスに捉え直すことが可能になる。その結果「よし。大変そうだけど頑張ろう!」と前向きな気持ちで取り組め、自己成長を加速させることが可能になるのである。

「リインタープリテーション」を身に付けるには、マイナスと思われる事象に直面したときには必ず「この事象のプラス面は何だろうか?」と考えることを習慣化するとよい。次第に自身の心の安定を維持しやすくなり、前向きな行動が増加するはずである。

 

若手社員は苦労を乗り越えて成長する

「艱難(かんなん)汝を玉にす」という言葉をご存じだろうか。「艱難」とは困難な状況に苦しむさまを、「玉」とは立派に成長した状態を表しており、人は困難や苦労を乗り越えることで初めて成長できるという真理を表現した文章である。

ビジネスパーソンの成長も同様であろう。皆さんも自身の職業生活を振り返り、自身が大きく成長した時を思い出してほしい。少なからず困難な状況に直面しており、それを乗り越えることで大きく成長した経験を持つ方が多いのではないだろうか。「あの時の苦労した経験が、今の自分の糧になっている」というケースも少なくないであろう。

部下に適切な艱難を与えて「玉」に磨き上げることは、リーダーに課された大きな使命である。若手社員が仕事を成長の原動力とできるよう、ぜひ、自身の仕事の与え方を工夫していただきたい。

 

プロフィール

大須賀信敬

コンサルティングハウス プライオ 代表 

(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)

コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表

中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。

 

 

組織リーダーの若手社員育成術<連載全8回>

若手社員に対する教育項目の中でも、特に重要なマインド教育。組織の一員として働くための基本姿勢や考え方を身に付けることは仕事をしていく上での軸となるものです。

そこで、新入社員・若手社員の育成をするうえで、重要な役割を担っている組織リーダーがどのように指導を行っていったらよいかを全8回にわたって解説します。

 

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