よくわかる研修開発のポイント(9)
ブレンディッド・ラーニングで研修効果を高める
<メンタルサポートろうむ代表 李 怜香/PSR会員>
前回、前々回と、対面研修とオンライン研修に分けて事前準備の説明をしたが、実は、そのように分けられないタイプの研修が増えてきている。「ブレンディッド・ラーニング」と呼ばれるものだ。要はオンラインとオフライン、講義とディスカッション等のワークショップを効果的に組み合わせ、「いいとこどり」をしようというものだ。今回は、「ブレンディッド・ラーニング」について、その概要と具体例を見てみよう。
◆研修のオンライン化で見えてきたそれぞれの手法の特徴
2020年4月からの新入社員研修は、先の見えないコロナ禍の中、従来のオフラインの対面研修をオンライン研修に置き換えて行った会社が多数にのぼったが、準備期間が短かったため、次のような「失敗」が多く見られた。
l 従来の1日分の研修をそのまま1日のプログラムにしてしまい、受講者は、短い休憩時間を挟んで、1日中画面に縛り付けられる。
l きちんと受講しているか不安なため、厳しい受講管理を行う。
l 膨大な量と種類の提出物を課す。
オンライン形式という器は新しかったものの、入れられた中身は古いままだったのだ。
しかし、いわば強制的なオンライン化を通して、オンラインとオフラインそれぞれのメリット・デメリット、さらに、オンラインの中でも、提供する手段(双方向か一方向か、同期か非同期か)による特徴がはっきりしてきた。
簡単にまとめると次のようになる。
1. オフライン研修
時間と空間を共有し、直接対話できるので、チームビルディングやエンゲージメント強化に向いている。また、デバイス等の準備が必要なく、主催者・受講者のITスキルも問われない。
2.オンライン研修
a. e-ラーニング(非同期・双方向)
いつでもどこでも学習できる。自分のペースで学べる。リアルタイムではないが、フィードバックやディスカッションもできる。
b. オンデマンド(非同期・一方向)
いつでもどこでも学習できる。また、大人数にも対応できる。コンテンツの作成が比較的容易である。
c. リモート授業(同期・双方向)
全員の顔がわかる程度の比較的少人数で、リアルタイムで行う。対話がしやすく、講師からのフィードバックもその場で行える。
d. ウェビナー(同期・一方向)
大人数に一度に学習機会を提供できる。また、ウェビナーの内容を録画すれば、そのままe-ラーニングやオンデマンドのコンテンツとして二次利用できる。
◆ブレンディッド・ラーニングの組合せ例
「ブレンディッド・ラーニング」とは、効果・効率・コストを考えて、オンライン・オフライン、さらにオンラインの中の様々な手法を組み合わせて行う研修である。
ブレンドすることで、1種類の研修よりも、学習効果が高まることも知られている。さらに、効率化、多様な働き方への配慮という点でもブレンディッド・ラーニングは効果的だ。
組合せの例を見てみよう。
① ウェビナーまたはe-ラーニング
② オフライン研修またはオンライン授業
③ 職場実践、上司との質疑応答
④ オンラインでの課題提出
非同期オンライン(ウェビナー・e-ラーニング)で事前学習を行い、その後、オフライン研修またはオンライン授業(同期・双方向)で、ディスカッション等、「時間を共有してこそできる」「受講者同士のつながりができる」ような研修を行う。いわゆる「反転授業」に、職場実践を加えたものである。
知識をインプットする事前学習である①は、効率的なウェビナーや個人のペースでできる e-ラーニングが向いている。「事前にできることはできるだけオンラインで効率よくすませておく」という発想が必要だ。
そして、②のオフラインの対面研修やオンライン授業では、①の「知識」に対して受講者の「感情」を動かすようなコンテンツを組み入れたい。「自分ごととして腹落ちする」ように工夫する。
さらに、③の職場実践で、知識を実際に試してみて、その中から出てきた疑問に上司が答えることによって、研修効果を最大限に高めることができる。
さらに、④で知識を確認するテストや、この研修で身についたこのレポートを課すことにより、研修でもたらされた行動変容を定着化させていく。
言葉は目新しいかもしれないが、内容を具体的に見てみると、研修として案外オーソドックスなものではないだろうか。
これはあくまで一例だ。それぞれの職場の状況に応じてアレンジし、ぜひ取り組んでみていただきたい。
プロフィール
メンタルサポートろうむ(http://yhlee.org)代表