労働基準法第32条・36条違反を避けるためには?
<株式会社WBC&アソシエイツ 大曲 義典/PSR会員>
時間外労働や休日労働を規定する労働基準法第36条が改正され、その上限が法定化されたのは周知の通りである。現行の実務で運用されている「時間外労働の限度に関する基準」(平成10年労働省告示第154号)が法律に格上げされ、罰則付きで規制されることになった。こうなると、規制する側には、言わば伝家の宝刀が与えられたことになるため、規制を受ける側も心して対応していかなければならない。
◆36協定の役割とは?
労働基準法では、法定された労働時間(1週40時間および1日8時間)を超えて労働させる場合や法定された休日に労働させる場合には、労働基準法第36条に基づいて、過半数労働組合や労働者の過半数を代表する者と労使協定を締結し、これを行政官庁に届け出なければならないとされている。
これがいわゆる「36協定」である。この手続きを経ることにより、労働基準法が定める罰則が免除される免罰効果が働くことになる。
ただし、これはあくまで企業と国との関係での話である。労働者に時間外・休日労働をさせるには、私法上の契約たる雇用契約(労働契約)が必要であることは言うまでもない。もっとも、通常は就業規則がその役割を果たすため、問題化することは稀であるが。
◆労働基準法第36条の改正から想定できること
この36協定締結の前提条件が変更されたため、さてどうなるか?というのが、目下の衆目の関心事であろう。改正法では、原則的な上限労働時間が、休日労働を含まずに月45時間・年360時間とされた。
これを超えて労働させる場合には、休日労働を含まずに年720時間が上限とされ、かつ45時間を超える月数は1年について6回以内とされている。この特例は、「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に労働させる必要がある場合」に 限って、協定できることになっている。
さらに、月単位および複数月単位での上限時間も、上記とは別に規制されるようになっている。つまり、単月では100時間未満、2~6ヵ月の平均では80時間以下とされ、これらの時間には休日労働を含むこと、とされた。つまり、規制が強化され、かつ複雑化したわけだ。
これらの改正内容から言えることは、大きく以下の3つである。
(1)労働当局の指導・監督が強化される
強行法規に時間外・休日労働の上限時間が明記されたという形式、そしてそれがすなわち長時間労働是正というミッションの具現化である、と捉えれば、これまでのように36協定の届出で完結とはならないはずだ。恐らく、36協定届出企業には、その実績の報告が求められるのではなかろうか。加えて、抜き打ち的な監督に入ることも視野に入れているだろう。
(2)36協定時間の遵守が求められる
36協定は、届出だけにとどまらず、その時間を遵守することが求められる。従って、社内における労働時間を、36協定との関係性においてどのように管理していくのかを、具体的に検討していく必要がある。
(3)36協定の実質的締結が必要となる
これまで多くの企業では、36協定届=36協定書として処理されていたのではなかろうか。通達により、36協定届に労働者代表の押印等を加えることで、36協定書として認められていたからである。しかしながら、これでは上記(1)や(2)に適切に対応することは到底不可能である。やはり、本来的な労使協定書の締結が不可欠である。
◆企業実務も変化させないと危うい
それでは、こうした変化に、企業としてどのように対応していけばよいのだろうか。昨年12月28日付で発出された厚生労働省労働基準局長通達などを踏まえながら検討してみよう。
【1】36協定の締結手続きや運用手続き
36協定は、労働者の過半数を組織する労働組合または労働者の過半数代表者を相手に締結しなければ、無効化してしまう。留意すべきは、「過半数の算定にあたって分母に含まれる労働者に間違いはないか」、そして「使用者の意向に沿って代表者を選出するものでないこと」、「選出手続きが民主的な方法であること」などである。この手続きは労働当局も目を光らせているため、要注意である。また、特別条項付きの36協定を締結している場合、その適用にあたっては、労使が合意した「協議や通告」などの手続きと、記録の保存が義務づけられていることも忘れてはならない。
【2】36協定の協定内容
36協定で協定する時間数は、あくまで企業の労働基準法違反を防ぐための枠取りである、との位置づけにすべきだ。従って、時間外労働および休日労働の最大可能時間を協定する形にしたほうがよい。さもなくば、協定時間を簡単に突破=法違反となってしまう。突破前の再協定は、通達でも原則として認められていない。協定書に記載するかどうかは別にして、労働者に事実上求める時間数は他の方法で行うようにすればよい。
【3】労働時間の管理
これまでの労働時間の管理は、どちらかといえば、上限時間を意識したものにはなっていなかったと考えられる。ところが、罰則付きで上限規制されれば、それを予防的に管理しながら遵守しなければならなくなる。しかも、複数の視点からの管理(休日労働を含めない年・月の時間外労働時間数、休日労働を含めた単月および複数月の時間外・休日労働時間数など)が必要となるため、少なくともITツールの導入は不可欠である。さらに、社員数にもよるが、人事部門だけでの集中的管理は不可能だろう。理想を言えば、社員一人ひとりが、自律的に労働時間を管理するのがベストである。暫定的には、部署単位で、マネージャーが労働時間を管理していくことになるだろう。もちろん、企業には、そのための運用対策が求められることは言うまでもない。
――以上のように、改正法の施行日以降の実務対応は、ドラスティックに変わらざるを得ない。幸い、中小企業の施行日は1年遅れの2020年4月となっている。この猶予期間のうちに、長時間労働削減への取り組みと併せて、上記に示した対応策を具体的に検討、ないしは実践していただきたい。
プロフィール
株式会社WBC&アソシエイツ(併設:大曲義典 社会保険労務士事務所)