【専門家コラム】仕事や生活の両立・多様な働き方の実現へ!時間単位年休の導入方法とポイント

公開日:2024年10月21日

 

仕事や生活の両立・多様な働き方の実現へ!時間単位年休の導入方法とポイント


<いろどり社会保険労務士事務所 代表 内川真彩美/PSR会員>

 

仕事と生活の両立や多様な働き方実現の観点から、年次有給休暇の時間単位取得制度(以降、「時間単位年休」)を導入する企業が増加しています。

独立行政法人労働政策研究・研修機構が令和3年7月に発表した調査結果では、時間単位年休制度の導入企業で「時間単位で取得したことがある」労働者は約56%、制度の満足度は65%を超えています。

未導入の企業でも、導入してほしいと感じる労働者は50%を超えており、従業員満足度の向上も期待できます。

そこで今回は、時間単位年休の導入方法やポイントを紹介します。

※データ出典:独立行政法人労働政策研究・研修機構「年次有給休暇の取得に関するアンケート調査」(企業調査・労働者調査)/全国の従業員30人以上の企業1万7,000社対象/有効回収数 企業5,738票、労働者1万5,297票

年次有給休暇の時間単位取得

そもそも年次有給休暇とは、労働者の心身の疲労を回復させ、ゆとりある生活の実現を趣旨としています。

そのため、年次有給休暇の取得は原則「1日単位」です。実は、半日単位での取得は法律上必須ではなく、1日単位でしか使えないルールにしても問題ありません。

しかし最近、生活スタイルの多様化、育児・介護・通院等との両立などの観点から、もっと柔軟に休暇を取得できるよう、半日単位の取得にとどまらず、時間単位年休が普及してきています。

例えば、通院のために1時間だけ早く退勤したい、役所に寄ってから出勤したい等、1日・半日単位で年次有給休暇を使うにはもったいないと感じたことがある方も少なくないのではないでしょうか。

生活と仕事の両立や、柔軟な働き方を実現させるために、時間単位年休は有効な制度です。

 

時間単位年休の導入方法

時間単位年休を導入するためには、就業規則と労使協定の整備が必要です。

いずれも厚生労働省が雛形を公表していますが、記載すべき内容を改めて確認しておきましょう。

なお、労使協定は労働基準監督署への届出は不要です。

①対象労働者の範囲

「時間単位年休を使える労働者が誰か」を定めます。業務の正常な運営が妨げられる場合には、対象外の部門等を設けることが可能です。

年次有給休暇は取得目的を問いませんので、「育児を行う従業員のみ」のように取得する目的により制限を設けることは禁止されています。

また、同一労働同一賃金の観点からも、雇用形態により制限を設けることもやめましょう。

②時間単位年休の日数

「1年で何日分の年次有給休暇を時間単位で使えるか」を定めます。前述の年次有給休暇の趣旨もあり、付与されたすべての日数を時間単位で取得させることはできず、1年で5日までと決められています。

そのため、5日以内の日数で指定します。

また、前年度から繰り越された分も含め5日以内です。

例えば、前年度に全く時間単位年休を取得せずにその年の年次有給休暇が付与された場合、時間単位年休が10日分使えるようになるわけではなく、あくまで上限は5日分です。

③時間単位年休1日の時間数

例えば1年で使える時間単位年休の日数上限を5日としたとき、1日が何時間扱いか定められていないと、具体的な時間数がわかりません。

そのため「1日を何時間として扱うか」を定めます。

原則、所定労働時間数から定めますが、1時間未満の端数がある場合には切り上げます。

具体的には以下の通りです。

所定労働時間 時間単位年休での1日の時間数
5時間超~6時間 6時間
6時間超~7時間 7時間
7時間超~8時間 8時間

 つまり、所定労働時間が7時間30分の企業では、5日分は35時間(7時間30分×5日)ではなく、40時間(8時間×5日)になるということです。

④1時間以外の時間を単位とする場合はその時間数

時間単位年休は基本的に1時間単位で使えるようにしますが、2時間単位、3時間単位のように、任意の時間数を単位にしても問題ありません。

1時間単位以外で使えるようにする場合にはその時間数を定めます。

 

時間単位年休導入・管理の留意点

2019年4月以降、法定の年次有給休暇の付与日数が10日以上の労働者に対し、年5日の年次有給休暇取得義務が使用者には課せられています。

しかし、時間単位年休はこの「年5日」にはカウントできません。

つまり、1年間で5日分の時間単位年休だけを取得した場合、年5日の取得義務は達成していないことになります。

この取り扱いは、半日単位の年休とは異なる部分ですので、正しく理解しておきましょう。

また、例えば「時間単位年休は1年で5日分」と定めている企業で、年20日の年次有給休暇が付与されている方がいるとします。

この場合、「1日・半日単位で使えるものが15日、時間単位で使えるものが5日」という考え方ではなく、「20日をすべて1日・半日単位で使っても良いし、5日分までなら時間単位で使っても良い。

内訳は各自に委ねる」という考え方であることは押さえておきましょう。

なお、関連事項として、時間単位年休を導入していない企業でも、2021年1月から子の看護休暇・介護休暇は時間単位取得ができるようにすることが義務化されています。

上述の「時間単位年休1日分を何時間として扱うか」の考え方は子の看護休暇・介護休暇も同じですし、時間単位で休暇取得する場合の申請方法・管理方法は子の看護休暇・介護休暇に対して検討しておくべきことですので、併せて確認しておきたいものです。

 

 

プロフィール

特定社会保険労務士 内川真彩美

いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)代表 

成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

 

 

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