退職者のケアのすすめ<第1回>
退職時のヒアリングで心のわだかまりを解消する退職者のケアとは
<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>
社員が退職をする際は単に一般的な退職手続きを取るだけでなく、当該社員からよくヒアリングを行って業務の改善や心のわだかまり解消に努めることが大切である。
このような取り組みを「退職者のケア」などと呼ぶことがある。
そこで今回から4回にわたり、人事労務部門が押さえておきたい「退職者のケア」の仕組みについて整理をしてみよう。
退職時に本当の退職理由を告げる社員は多くない
社員から退職の希望が告げられた場合、会社側は「退職理由の確認」「退職関係書類の準備」「社会保険の資格喪失処理」など、社内で定められた退職手続きを進めることになる。
しかしながら、社員から退職の意思表示が行われた際、このような一般的な退職手続きを進めるだけでは決して十分とは言えない。
社員が退職を決意するのには、もちろん理由が存在する。ところが、本当の理由を告げて退職をする社員は必ずしも多くない。
退職を希望する社員には「会社との無用なトラブルは避けたい」「辞めないでほしいと引き留められるのは面倒だ」「本当の理由を言うと残った社員に迷惑が掛かるかもしれない」などの思いがあるものだ。
そのため、「当たり障りのない理由」や「引き留めることが困難な事情」を告げて会社を辞めるケースが少なくないものである。
しかしながら、本当の退職理由が分からずに退職の原因となる要素を放置していては、その後も同様の退職が継続的に発生しかねない。
その結果、採用コストの増加・業務レベルの低下・職場の雰囲気の悪化など、組織運営上のマイナス事象が次々に生じてしまうものである。
従って、安定的な事業運営を実現しようと思えば、本当の退職理由はどうしても入手したい情報といえる。
『職場や仕事に対する本音』をヒアリング
社員の退職時には通常の退職手続きに加え、今後の会社運営に有益な情報を当該社員から提供してもらうことが重要といえる。
具体的には、退職予定者から「最初は言えなかった本当の退職理由」「人事部門は知らないであろう配属先での出来事」「これからの会社に望むこと」などをヒアリングするのである。
「退職予定の社員がそんなことを話してくれるのだろうか?」と疑問に思う方もいるだろう。
ところが、退職予定の社員は「退職を決意する前まではとても言えなかったが、退職が決まった今であれば言える『職場や仕事に対する本音』」というものを心に抱えているケースが少なくない。
そのため、適切な環境を用意すれば、会社が望む情報を提供してくれる社員はいるものである。
「会社を良くするために何とか力を貸してほしい」と真摯に協力を依頼すれば、気持ちよく話してくれる社員も多いだろう。
本当の退職理由をはじめとする『職場や仕事に対する本音』を退職予定の社員から引き出せれば、企業の業務改善に役立てることが可能になる。
その結果、離職率の低下・採用コストの削減なども実現でき、職場の風土改善も期待できるわけである。
退職社員を自社のファン・応援団に
会社側が退職予定の社員に『職場や仕事に対する本音』をヒアリングする取り組みは、退職をする社員にとってもメリットが大きい。
今までは言いたくても言えなかった本当の考えを会社に伝えることができた社員は、「胸のつかえが取れたような、スッキリとした気持ち」になることが多いものである。
会社への思いを全て吐き出し、憂いなく次のステップに進むことが可能になるからだ。
つまり、退職時のヒアリングは、社員が心に抱えている「会社へのわだかまり」を解消させ、次のステージへ気持ちよく送り出す仕組みともいえるのである。
そのため、この取り組みは「退職者のケア」などと呼ばれることもあるようだ。
また、『職場や仕事に対する本音』にキチンと耳を傾けてくれた会社に対し、退職予定者は好印象を持つことが多い。
これは、会社と退職予定者との間で好ましい関係性が構築されたことを意味する。そのため、当該社員が自社のファン・応援団になることも少なくない。
その結果、退職するまでの間に後任の人材を紹介してくれることもあるだろう。
後日、当該社員を再雇用できるチャンスが巡ってくるかもしれない。前者はリファラル採用、後者をアルムナイ採用などという。
実現すれば、いずれも採用コストの削減などが可能となる。
退職者の“ネガティブな行動”の未然防止も可能
社員が会社に不満を抱いたまま退職した場合、退職後に会社の評判を落とすような情報をSNSに投稿するなど、不適切な行動を取ることも懸念される。
万一、そのような事態に陥れば、マイナス情報を拡散された企業への影響は甚大である。
しかしながら、退職時に『職場や仕事に対する本音』をしっかりとヒアリングし、会社と退職者との間で好ましい関係性が構築されていれば、退職した社員がSNSに不適切な投稿をする可能性も極めて小さくなる。
退職者の“ネガティブな行動”が未然に防止できる。これも退職者のケアの効果といえよう。
今回は、退職予定の社員から本当の退職理由をはじめとする『職場や仕事に対する本音』をヒアリングする退職者のケアについて、仕組みや効果などを見てきた。
第2回では、新入社員・若年社員が退職を申し出てきた場合の退職者のケアについて考えてみよう。
>>>退職者のケアのすすめ<第2回> 退職をする「新入社員」「若年社員」に対するヒアリングのポイント
>>>退職者のケアのすすめ<第3回>退職をする「中堅社員」「ミドル社員」に対するヒアリングのポイント
>>>退職者のケアのすすめ<第4回>退職をする「高齢社員」「シニア社員」に対するヒアリングのポイント
プロフィール
コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬
(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)
コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。
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