コロナ禍の採用活動で必要な配慮と注意点
採用定着コンサルティングOFFICE サン&ムーン 代表 社会保険労務士 田中 亜矢子/PSR会員
2021年の春に卒業する学生を対象にした採用面接が2020年6月1日から本格的に始まっているが、今年は新型コロナウイルス感染症の拡大にともない、企業側にも、学生側にも、大きな変化が生じている。大型のイベントが相次いで中止となり、実際に対面で会うことが難しくなった今、採用活動は何に注意すればよいのだろうか。今回は、経済産業省から発表されている「就職・採用活動に関する要請」を踏まえ、コロナ禍の採用活動で配慮すべきことについてお伝えしたい。
◆経済産業省からの「就職・採用活動に関する要請」について
2020年度卒業・修了予定者などを対象とした就職・採用の広報活動が開始された3月あたりから、新型コロナウイルス感染症の拡大を防止するため、政府から全国規模のイベントについて中止・延期・規模縮小などの対応が要請された。そのため、多数の学生が集まるような企業説明会の大半が中止となり、企業側も学生側も不安を感じている。企業側は直接学生と会って広報することが難しくなり、学生側も企業を十分に理解する機会が失われたまま採用活動が進み、雇用のミスマッチが生じる恐れがある。
経済産業省から出されている「新型コロナウイルス感染症への対応を踏まえた 2020 年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動及び 2019 年度卒業・修了予定等の内定者への特段の配慮に関する要請」には下記のことが記載されている。
(1)企業説明会について
・新型コロナウイルス感染症の拡大防止の観点から、開催の必要性を改めて検討すること。
<開催の場合>
・出席者へのマスクの着用や手洗いの推奨、アルコール消毒薬の設置、こまめな換気の実施など感染の拡大防止に十分配慮すること。
・学生が出席できなかったことをもって、その後の採用選考に影響を与えることがない旨を積極的に情報発信すること。
<中止・延期の場合>
・学生の交通、宿泊などの影響を鑑み、可能な限り速やかに中止・延期の連絡を行うこと。
・インターネットをはじめ多様な通信手段を活用した代替的な企業説明会を積極的に実施すること。
(2)エントリーシートについて
・学生が企業を理解する十分な機会を確保するため、エントリーシートの提出期限の延長を積極的に検討すること。
(3)採用選考活動について
・採用選考日程を後ろ倒しにするといった柔軟な日程の設定や、秋採用・通年採用などによる一層の募集機会の提供を行うこと。
・学生の意向にも配慮しつつ、インターネットをはじめ多様な通信手段を活用した面接や試験を実施すること。
企業には、上記のような情報を積極的に発信することが要請されている。では、直接学生と会う機会が減った採用活動の中で、企業側は何に配慮すべきだろうか。
◆コロナ禍の採用活動で配慮すべきこと
数年前からWeb上でのセミナー・会社説明会・面接を導入する企業は増えていたが、今回の新型コロナウイルス感染症の影響によって、さらに活用する企業が増加した。オンラインでの採用活動に移行する中で、配慮すべきポイントは以下の3点である。
(1)学生にとって使いやすいツールを導入すること
ツールを導入するまでのフローが複雑であったり、使い方がよくわからなかったりするシステムは敬遠される。スマートフォンに慣れている学生らは、直感的に使い方がわかるものを好む。また、パソコンを利用していない学生も多いため、スマホで利用することが可能なシステムの方がよい。
(2)実際に会わなくても会社を理解してもらえるようなコンテンツ作成
文字だけで企業の魅力を伝えることは難しい。動画を活用し、実際に働いている従業員の様子を届けることも有効である。会社の雰囲気を直接感じる機会を与えることは、採用後のミスマッチを減らすことにつながる。
(3)コミュニケーションのとり方
オンライン面接は、直接対面するよりもお互いに距離を感じやすい。そのため、いつもよりあいづちや表情・姿勢に気をつけ、学生が話しやすい雰囲気をつくることが必要である。
また、学生はメールや電話よりもLINEといったSNSアプリで連絡を取り合うケースが多く、LINEの活用も有効である。多くの学生と直接会う機会が減るため、ダイレクトリクルーティングを新卒で活用する企業も増えてきた。手間はかかるが、学生がネット上で記載している自己紹介や特技などを参考にして、自社にその能力がどう活かせるかを記載するといった、学生が「自分だけに宛てて連絡してくれている」と感じられるようなメッセージを配信する。これによって、自社に興味をもってもらえる可能性は高まる。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響で採用人数を減らす企業が増えることも予想されるが、人手不足は依然として続く。柔軟な対応を心がけ、ひとりでも多く、企業に必要な人材の確保に努めていただきたい。
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