「厚生労働省イクメンプロジェクト」実施の調査から、男性育休取得推進のポイントを解説
<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員>
令和5年4月より、常時雇用する労働者が1,000人を超える事業主は、育児休業等取得の状況を年1回公表することが義務付けられました。
その中で、厚生労働省イクメンプロジェクトでは「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査(以下、厚労省調査)」が行われ、令和5年7月31日に調査結果の速報値が公表されました。
今回は、この調査結果から、男性育休取得推進に必要なポイントを考えていきます。
~調査概要①~調査対象は「従業員数1,000人超の企業」
厚労省調査では「調査の目的・実施概要」について、次のように示しています。
【目的】
従業員数1,000人超の企業に対して育児休業等取得率の公表状況や公表による効果等に関して調査を
実施し、公表による企業へのメリットや、育休等取得率の向上につながった各企業の取組内容などを分析すること。
【実施概要】
• 調査手法:依頼状の郵送によるWebアンケート調査
• 集計期間:2023年6月5日~7月10日
• 調査対象:全国の従業員1,000人超のすべての企業・団体
• 発送件数:4,409件
• 有効回答数:1,472件(回答率:33.4%)
※従業員数1,000人以下と回答した企業を除く、1,385件を分析対象とした
• 調査時点: 2023年6月1日 (※育休等取得率は前事業年度の数値)
今回の調査は、育児休業取得状況の公表義務がある「従業員数1,000人超の企業」を対象としたもので、その効果などについて分析することを目的に行われた調査です。
なお、毎年度の育休取得率推移の目安となる、無作為に抽出した事業所などを対象に行われる厚生労働省「雇用均等基本調査」とは異なるものです。
~調査概要②~回答した企業における男性の育休等取得率は「46.2%」
回答については、前事業年度に配偶者が出産した男性労働者がいて、同年度に育児休業等を開始した男性労働者の数を集計している企業によるものです(今回の速報値では、男性の育児休業等取得率に育児目的休暇を加えて計算している企業は集計していません)。
そして「前事業年度に育児休業等(子の育児目的休暇は含まれない)を開始した男性労働者の数の合計数」を「前事業年度に配偶者が出産した男性労働者の数の合計数」で割った数字として、男性育休等取得率を計算しています。
なお、令和4年度の「雇用均等基本調査」の男性育休取得率は『17.13%』でしたので、今後の「雇用均等基本調査」においても、どれくらいの数値の変化があるか注目されます。
~調査概要③~調査結果のまとめで示した‘’5つのこと‘’
厚労省調査では「育休等取得率の公表による効果」「男性の育児休業取得率向上の取組による効果」などの質問に関する企業の回答割合も示されています。
そして厚労省調査結果のまとめとして、回答の傾向、その結果から導き出された可能性などについて、次のように示しています。
1 男性の育休等取得率の公表により、社内の男性育休取得率の増加、男性育休に対する社内の雰囲気のポジティブな変化、新卒・中途採用応募人材の増加にもつながる
2 男性の育休取得率向上のための取組が、職場風土の改善や従業員満足度・ワークエンゲージメントの向上、コミュニケーションの活性化など職場全体へも好影響を与える
3 社内の育休取得事例の収集・提供や社内研修の実施が、男性の育休等取得率向上に効果的
4 「個別の周知・意向確認」は、直属の上司が行うことが効果的
5 「個別の周知・意向確認」は、電子メールや対面またはオンラインでの面談により実施することが効果的である可能性がある
~取得推進ポイント①~‘’数‘’だけではなく‘’質‘’の評価も行う
男性の育休取得率が低いという社会課題を解決する上でも、「どのくらいの人数が、育休を取得できたか」という‘’数‘’を追求することは、他に先んじて大切なことです。
しかし‘’数‘’を追求しただけでは、「企業として、どのようなメリットがあったのか」ということが不明瞭なままともいえます。厚労省調査結果にもあった『新卒・中途採用応募人材の増加』『従業員満足度の向上』などの‘’質‘’を分析することが大切です。
そして‘’質‘’を分析する上で大切なことは「課題に目を背けないこと」です。
例えば『従業員満足度の向上』が、特定の従業員による過度の業務負担により成り立っていたとしたら、それは‘’質‘’が高いものとは言えません。
育休取得を推進する上で、仮に「業務負担が大きい従業員がいるという課題」があれば、それを明確にし、その課題に目を背けずに解決を目指し続けることが、育休取得の‘’質‘’の高い職場風土といえます。
~取得推進ポイント②~双方向的なコミュニケーションを大切に
厚労省調査まとめにあった「個別の周知・意向確認」について、少し掘り下げて確認します。
『個別の周知・意向確認は、直属の上司が行うことが効果的』というのは、男性育休取得率の高い企業は、育休の意向確認などを「直属の上司」が行っている回答割合が高かったことから、1つの可能性を示しています。
さらに『個別の周知・意向確認は、電子メールや対面またはオンラインでの面談により実施することが効果的』というのは、男性育休取得率の高い企業は、育休の意向確認などを「電子メール」「対面またはオンラインによる面談」により行っている回答割合が高かったことから、もう1つの可能性を示しています。
これらに共通して考えられることは『双方向的なコミュニケーション』が想定されることです。
例えば、日常のコミュニケーションは「人事部門の担当者」より「直属の上司」の方が多いと考えられますので、コミュニケーションの積み重ねが、育休取得にもつながっているのかもしれません。
また「書面」のように一方的に通知するよりも、双方向的なコミュニケーションも想定した「電子メール」「対面またはオンラインによる面談」の方が、個々の従業員の育休取得について深く話し合うなどのメリットがあるのかもしれません。
~取得推進ポイント③~職場風土に合った推進方法を見つける
しかし一方で、「個別の周知・意向確認」について、「人事部門の担当者」や「書面」の効果が低いとも言い切れません。「人事部門の担当者」が確認した方が、上司の考え方に左右されないメリットもあるかもしれませんし、「書面」で確認した方が、企業内で情報漏れのない周知にもつながるかもしれません。
大切なことは、男性育休取得推進を通じて、職場風土を知ることです。
そして、さまざまな方法を組み合わせて、職場風土に合った推進方法を見つけることです。
今回の厚労省調査は「従業員数1,000人超の企業」を対象としていますので、もし中小企業であれば、その回答内容も違った傾向になるかもしれません。
厚労省調査を1つの指標としながら、「職場風土をふまえ、男性育休取得推進のために何をしたら良いか」を考える‘’企業の主体性‘’が重要であり、それは男性育休取得推進に関わらず、その他の職場風土改善にも必要なことです。
参考資料:「令和5年度男性の育児休業等取得率の公表状況調査(速報値)」(厚生労働省イクメンプロジェクト)
https://www.mhlw.go.jp/content/001128241.pdf
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