<ひろたの杜 労務オフィス 山口善広/PSR会員>
厚生労働省では、学生を対象に事業主とのトラブルを防止するために自分の労働条件を確認するよう促す取り組みをしています。
ひと昔前とは違い、学生アルバイトの方々も、スマートフォンなどで労働基準法などの法律をすぐに調べることができますから、疑問点は事業主の皆さんに対してすぐに聞くことができる環境にあります。
下手をすると、事業主の皆さんよりも学生の方が労働法に詳しかったりすることもありますので注意が必要です。
そこで、この記事では、学生アルバイトの方を雇用する事業主として最低限知っておかなければならない労働条件についてのルールを取り上げますので、労使のトラブルが起きないよう事前に取り組みを行いましょう。
労働契約の締結時には、「労働条件の明示」が必要です!
労働基準法第15条によると、労働契約の締結の際には、賃金や労働時間、労働契約の期間などの労働条件の明示が必要です。
これは、学生アルバイトの場合も同様です。
賃金や労働時間などの労働条件の明示は、原則として書面で行う必要がありますが、労働者が希望する場合には電子メールなどの方法で明示することも可能です。
ちなみに、労働条件の明示は、雇用契約書のように双方の捺印の形式を取る必要はなく、労働条件通知書をアルバイトの方に交付する形でも大丈夫です。
いずれにしても、最初に労働条件の明示をしておかないと、後で言った言わないのトラブルになる可能性がありますので、単に法律を守るということだけでなく、トラブル防止の観点からも必要なプロセスと言えるでしょう。
労働時間が1日8時間、1週間40時間を超えたら割増賃金が必要です!
アルバイトの方の労働時間を把握しておきましょう。
業務が忙しく、アルバイトの方にいつもより多く働いてもらうところまでは良いとしても、原則として、1日の労働時間が休憩時間を除いて8時間を超えたり、1週間の労働時間が休憩時間を除いて40時間を超えると、割増賃金を支払う必要が出てきます。
(所定の要件を満たす事業場では週44時間までは割増賃金の支払が発生しません。)
しかし、タイムカードなどの勤怠管理ツールを導入していない事業場の場合、労働時間の管理が甘くなり、割増賃金の支払が発生していることに気づかないケースもあったりします。
一方、アルバイトの方は自分がどれだけ働いているのかきっちり管理をしていますから、「残業代どうなっているんですか?」と言われないよう、きちんと労務管理をしておきたいですね。
アルバイトにも年次有給休暇は発生します!
労働基準法の第39条には、雇い入れてから6ヶ月を経過すると、労働者の勤務日数に応じた年次有給休暇が発生します。
注意が必要なのは、週1日1時間の勤務形態になっているアルバイトの方にも年次有給休暇が発生するということです。
とはいうものの、現実には「うちのアルバイトには有給休暇ないから」とおっしゃられる事業主の方がいらっしゃるのも事実です。
しかし、労働基準法にはアルバイトには年次有給休暇を与えないという規定はありません。
法律上は、「労働者」と規定しているだけなので、正社員やパート、アルバイトの区別なく、雇い入れている労働者がいれば、所定の要件を満たすと年次有給休暇の請求権が労働者に発生しますので注意しましょう。
間違っても「明日から来なくていいから」は厳禁です!
雇っているアルバイトの方の勤務態度が芳しくないからといって、「明日から来なくていいから」は労働基準法上の「解雇」となる可能性が高くなります。
労働者を解雇する場合、労働基準法第20条により、少なくとも30日以上前に予告をするか、30日分以上の平均賃金を支払う必要があります。
それをせずに労働者を解雇すると、アルバイトの方が労働基準監督署に申告をした場合、行政指導の対象になる可能性があります。
また、上記の規定を守ったとしても、不当解雇ということでトラブルになると、個別労働関係紛争解決促進法の都道府県労働局長による口頭助言やあっせん、労働審判や民事訴訟など事業主の方にとってはありがたくないことに巻き込まれることになるかもしれませんので言動には気をつけておいた方が良いでしょう。
いかがでしょうか。
事業主の方にとっては、ご自分の事業の経営で頭がいっぱいでアルバイトの方の労務管理まで手が回らないということがあるかもしれません。
ですが、労務トラブルが起こってしまうと必要以上の労力やお金を割かなければならないことになるだけでなく、事業の評判にも関わってしまう可能性が出てきます。
したがって、普段から社会保険労務士など労務管理のプロにいつでも相談できるようにしておくなど、リスク回避のための準備をしておくことをお勧めします。
プロフィール
ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/)
営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。