最終チェック!「年5日の有休取得義務」実務対応のポイント
<松田社労士事務所 松田 法子/PSR会員>
4月から施行された働き方改革関連法では、長時間労働の是正、多様で柔軟な働き方の実現、雇用形態に関わらない公正な待遇の確保などのための措置を講じることが求められる。法改正直後となる今回は、最終確認として、全企業において対応が必要な「年5日の有休取得義務」で最低限必要な「年次有給休暇管理簿の作成」と「就業規則改正」の実務対応のポイントをご紹介する。
◆年次有給休暇管理簿作成のポイント
2019年4月から、労働基準法改正により、全ての企業において年次有給休暇(以下、有休という)が年10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)に対して、有休の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させること(時季指定)が義務付けられた。つまり今回の法改正で、まずは、年次有給休暇管理簿の作成が必要となったわけである。
「年次有給休暇管理簿」は、労働基準法施行規則第24条の7に規定され、労働者ごとに有休の「時季(有休を取得した日付)」、「日数(有休を取得した日数)」、「基準日(労働者に有休を取得する権利が生じた日)」を明らかにし、3年間保存しなければならない。
ある程度の規模の事業所になると、システムで管理するのが一般的だと思うが、システムの仕様によっては、有休の申請・承認漏れなどにより実態とズレが生じているケースもあるようなので注意が必要だ。
中小企業だと、エクセルなどの書式での管理が考えられる。しかし、従業員ごとに入社日が異なる場合は、基準日も従業員ごとに異なり、管理が煩雑である。
基準日を統一することができれば、煩雑さは解消できるが、企業側に負担が強いられるため、なかなか取り組むのが難しいようである。よってその場合は、従業員ごとに、基準日からの1年間が管理できるようにシートを設計すれば一目瞭然となり、管理がしやすい。
さらに別の方法としては、「年次有給休暇管理簿」に、1年間の従業員本人の取得予定日を朱書きなどで色を変えて記載させるのもお勧めだ。
日にちまで指定するのは難しい、という声もあるが、部署内での調整などを考えると、日にちまで指定をしていたほうが、お互いの予定を考慮することもでき便利である。また、本人もできるだけ有休をとるように仕事の調整をすることになるので、結局休みがとれなかった、という事態も防ぐことができる。
◆就業規則改正のポイント
休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)であるため、使用者による有休の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法などについて、就業規則に記載しなければならない。
これについては、厚生労働省が作成している「年5日の年次有給休暇の確実な取得わかりやすい解説」に規定例があるので、参考にするとよい。(https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf)
また今回、有休の「時季指定」が法改正の内容となっているが、「計画的付与」と混同しているケースがあるようなので、ここで改めて確認をしておきたい。
「計画的付与」とは、今までにもあった制度で、労働基準法第39条第6項に定められている。これは労使協定を締結することによって、各労働者の有休のうち5日を超える部分について、あらかじめ日にちを決めて付与する制度である。付与方法は、以下の3通り。
(1)一斉付与:事業場全体を休業させ、労働者全員をやすませる、
(2)交代制付与:部署など職場単位で実施する
(3)個別的付与:有休付与計画表に基づき労働者ごとに個別に付与する
こうした方法であれば、年間5日の消化について一律にできるため、管理がしやすく、計画的な業務運営ができる。
実務上、「計画的付与」は、労使の話し合いに基づき、有休取得の取り決めをするというのに対し、「時季指定」は、年5日の消化が難しそうな労働者に対して個別に使用者が意見を聴取しながら有休を取得させるのに使用することになるだろう。
今回の改正は、「違反一人につき30万円の罰金」と言われているようだが、労働基準監督署の監督指導においては、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図って頂くということである。
しかし罰金の有無に関わらず、「仕事の脱・属人化」は、今後の人材不足時代のキーワードであると言える。有休の取得を促すことで、仕事の脱・属人化を進めることもできるため、企業として、ここはぜひ前向きに取り組んでおきたい。
プロフィール
松田社労士事務所(http://www.matsuda-syaroushi.com/)代表