働き方改革で変わる? 令和時代の転勤制度について考える
<松田社労士事務所 松田 法子/PSR会員>
働き方改革関連法が4月から施行された。働き方改革は、働く人々が、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自ら選択できるようにするための制度だ。また、最近の「パタハラ」騒動勃発により、転勤をはじめ、配置転換制度の在り方についても問われるようになった。働き方改革によって従来の働き方が大きく変わっていく中、令和時代の転勤制度も影響を受けるのだろうか。
◆育休明けの転勤命令は「パタハラ」なのか
日本有数の化学メーカーに勤めていた元社員の妻が、Twitterで夫の育休復帰直後の転勤命令を告発したのを発端に、「パタハラ(パタニティ・ハラスメント)」騒動が炎上している。パタニティとは、Paternity(父性)の意味で、「パタハラ」は育児休業制度等を利用する男性社員への、上司・同僚からの嫌がらせなどをいう。
企業側は、「育児や介護などの家庭の事情を抱えているということでは社員の多くが当てはまり、育休をとった社員だけを特別扱いすることはできない。したがって、結果的に転勤の内示が育休明けになることもあり、このこと自体が問題であるとは認識していない」とコメントしているが、はたして、育休明けすぐの転勤命令に問題はないのであろうか。
転勤命令の有効性は、
・就業規則に、業務上の都合により転勤を命じることができる旨が定められていること
・実際にこれに基づき転勤が頻繁に行われていること
・雇用契約で勤務地や職種が限定されていないこと
・業務上の必要性および当該転勤命令がもたらす労働者の職業上ないし生活上の不利益の比較衡量
などによって判断されることになっているが、基本的には、企業独自の経営判断に基づいて行われるのが一般的である。
しかし、転居を伴う転勤は、労働者の生活に大きな影響を与え、結婚・妊娠・出産・育児・介護に支障をきたし、継続就業の妨げになることがある。
独立行政法人労働政策研究・研修機構の「企業の転勤の実態に関する調査」によると、「転勤により育児や介護が困難となる」と回答している割合は高く、共働き世帯の増加を背景に、転勤の在り方を個々の企業が検討しなくてはならない時代に入っていると言ってもよいだろう。
◆転勤が違法と判断されるケースとは
東亜ペイント事件判決(最高裁二小 昭和61.7.14判決)では、転勤命令について、「使用者は業務上の必要に応じ、その裁量により労働者の勤務場所を決定することができる」としながらも、「業務上の必要性が存しない場合又は業務上の必要性が存する場合であっても、当該転勤命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものであるとき若しくは労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものであるとき等、特段の事情の存する場合」、転勤命令権の行使が権利の濫用に当たるとしている。
「業務上の必要性」については、「当該転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当でなく、労働者の適性配置、業務の能率増進、労働者の能力開発、勤務意欲の高揚、業務運営の円滑化など企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性の存在を肯定すべきである」と判示され、「不当な動機」や「甘受すべき程度を著しく超える不利益」がない場合、転勤命令は有効とされてきた。
しかし、転勤に関する法改正も次のように行われ、ワーク・ライフ・バランスが叫ばれる令和時代の転勤制度が、かつてと全く同じというのは問題があると言える。
(1)平成13年「育児・介護休業法」:労働者の転勤について、育児や介護状況に関する使用者の配慮義務が定められる。
(2)平成19年「労働契約法」:「仕事と生活の調和への配慮」が労働契約の原則として定められる。
(3)平成26年「男女雇用機会均等法施行規則」「コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針」:すべての労働者の募集、採用、昇進、職種の変更をする際に、合理的な理由がないにもかかわらず転勤要件を設けることは、「間接差別」として禁止される。
最近の裁判例では、労働者の育児・介護への配慮に欠く転勤命令が、権利濫用と判断されるケースも増えてきている。また、優秀な人材の流出を防ぐため、転勤制度の見直しをする企業も増えているようだ。
筆者の場合も、自身は自営業、配偶者は転勤制度有の会社員であり、転勤命令がいつくるかと怯える日々である。共働き女性の一人として、共働きでも安心して子育てや育児ができる世の中となるよう祈りたい。
プロフィール
松田社労士事務所(http://www.matsuda-syaroushi.com/)代表