<いろどり社会保険労務士事務所 内川真彩美/PSR会員>
2021年6月、改正育児・介護休業法が成立、公布されました。今回の法改正は、各メディアで「男性が育児休業を取りやすくなる制度」とも紹介され、非常に注目の高いものとなっています。少子化の進む日本では、育児と仕事の両立を推進していくことは非常に重要です。改正された法律は2022年4月から順次施行されていきますので、何が改正されるのか、どのような準備が必要なのかを今から確認しておきましょう。
今回の法改正で一体何が変わるのか
今回の法改正では、以下のような内容が追加・変更されます。
(1)子の出生後8週間以内に取得できる出生時育児休業の創設
子の出生直後、女性は産後休業(最大8週間)を取得できます。この期間、その配偶者も育児のための休業が取得しやすいよう「出生時育児休業」が創設されます。具体的には、以下のような内容です。
・子の出生後8週間以内に4週間(28日間)まで育児休業が取得できる
・休業申出は、原則休業の2週間前まで(現行法は1か月前までに申出)
・2回までの分割取得が可能
・労使協定の締結と労働者との個別合意がある場合、休業中の就業も可能
業務内容によりまとまった期間の休業が取得しにくい労働者も、分割取得や休業中の就業が可能になることで、より育児休業を取得しやすくなります。
ただし、休業中の就業はどんな場合でもできるわけではありません。まず、労働者側から、休業中も就業してよい旨とその場合の条件を会社に申出ることが必要とされています。そのため、会社側から労働者へ休業中の就業を要請することは制度の趣旨に反します。なお、厚生労働省令にて休業中の就業可能日数や時間の上限が定められる予定です。
また、同時に成立した雇用保険法の改正により、出生時育児休業時に使える給付金制度も創設されます。現行の育児休業時と同様、出生時育児休業中も雇用保険からの所得補償を受けられるようになります。
(2)育児休業の分割取得
現行法では育児休業の分割取得は原則できませんが、今回の法改正で、上記(1)の休業期間とは別に、育児休業を分割して2回まで取得することができるようになります。
(3)育児休業の制度周知・取得意向を確認する義務
本人もしくは配偶者の妊娠・出産の申出をした労働者に対して、以下の措置が義務付けられます。
・育児に関する制度を個別に周知
・育児休業の取得意向を個別に確認
ポイントは、育児休業を取得するかどうかを会社が直接労働者に確認することが義務付けられるという点です。制度を整備しておくだけでなく、個別面談等を通して「(本人もしく配偶者が)妊娠・出産をするならこういう制度が使えますよ」、「あなたは育児休業を取得しますか?」と、会社側から育児休業取得を働きかけていきましょうということです。
その他にも、育児休業に関する研修の実施や相談体制の整備のような、育児休業に係る雇用環境の整備が義務付けられます。今後は、労働者が育児休業を取得しやすいよう、会社が積極的に協力していくことが求められていきます。
(4)育児休業の取得状況の公表の義務化
常用労働者数が1000人を超える事業主に対し、育児休業取得の状況を公表することが義務付けられます。
(5)有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件を緩和
現行法では、有期雇用労働者が育児・介護休業を取得できる要件として「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」というものがありますが、この要件が廃止されます。ただし、労使協定を締結した場合には「事業主に引き続き雇用された期間が1年以上である者」を対象外とすることが可能です。
誰もが仕事と育児を両立しやすい職場環境の整備が求められる
今回の法改正は「男性育休」というワードで語られることも多いですが、前述の通り、男性育休に限った法改正ではありません。性別や雇用形態に関係なく、会社全体で育児と仕事の両立をサポートしていきましょうという方針が見て取れます。
育児に関する制度は、取得する人だけが知っておくべき内容ではありません。部下や同僚が休業したいと言ってきたとき、育児休業はどのくらいの期間休めるのか、具体的にどのような制度・制限があるのか等を知っているだけで、業務の調整等にも迅速に対応できます。さらに、育児休業に関しては、マタハラ・パタハラ・ジタハラ等のハラスメントも度々聞かれ、社会問題にもなっています。そのため、法改正に対応するだけでなく、育児に関する制度を使用しやすいような職場風土の醸成は不可欠です。上記(3)でも解説したように、今後は、育児休業に関する研修実施も国が求める措置の1つになります。今回の法改正を機に、法律の内容、自社制度の内容、ハラスメントに関する研修を定期的に実施するのも良いでしょう。
解説した制度は順次施行されていきます。特に、上記(3)および(5)は2022年4月1日より施行されるものです。施行日間際で慌てないよう、就業規則改定をはじめとする社内制度の整備や対応方針を、今からきちんと考えておきましょう。
プロフィール
特定社会保険労務士、両立支援コーディネーター 内川真彩美
いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com)