<フェスティナレンテ社会保険労務士事務所 小嶋裕司/PSR会員>
「無駄な残業をしている社員がいます。そこで、残業の許可制(事前に申請し、会社が許可した残業のみ認める制度)を導入しました。しかし、残業が減りません」というご相談を企業から多く受けます。しかし、残業の申請方法、及び許可の方法が適切ではないことが多いです。今回は、残業の申請方法・許可の仕方を変えただけで、5人の部署で100時間以上の残業が減った汎用性の高い事例をご紹介します。
残業を「事前申請・許可制」にしただけでは無駄な残業は減りません
「必要のない無駄な残業をしている社員がいる。時間内に仕事を終えた社員には残業代が出ないのに、だらだらと仕事をしている社員に残業代が出るのはおかしい」
このようなご相談をよくいただきます。だらだら残業や生活残業などと言われる問題です。
確かに、この問題は、時間内に仕事を終えている社員のモチベーションまで下がり、社内の雰囲気まで悪くなります。
この対策として、残業は社員に事前に申請させ、許可したものだけを認めることが一般的です。いわゆる、『残業の事前申請・許可制』と呼ばれる制度です。就業規則に残業の事前申請・許可の手続・ルールを記載し、会社の制度として設けます。
しかし、この方法を採用しても、期待したほど残業が減らないという会社が非常に多いです。
そこで、何が問題なのか詳しくうかがうと、「残業の申請・許可のルール」が適切ではないことがほとんどです。
残業の事前申請・許可制を採用しても残業が減らない会社の多くが、終業時刻(又は終業時刻間際)になってから、残業の申請をさせています。これでは、残業は思うようには減らないのは当然です。
もし、終業時刻になってから残業の申請をされたら、どうなるでしょうか?その日に行うべき重要な業務が終わっていなければ、残業を許可せざるを得ません。
残業の申請は終業時刻になってからでは遅く、終業時刻の少なくても2時間前までにさせる必要があります。さらに、「➀終業時刻までに行うタスク」と、「➁残業して行うタスク」を社員に書いて提出してもらいましょう。
そのうえで、社員が書いた内容を上司がチェックします。具体的には、「➀終業時刻までに行うタスク」の中に、翌日以降でもかまわないタスクが含まれていないかをチェックします。
もし、そのようなタスクがあれば、翌日以降にさせることにして、「➁残業して行うタスク」の中で重要なものを終業時刻までに社員にやってもらいましょう。
残業の事前申請・許可制は上司と社員で仕事の優先順位のすり合わせをする良い機会です
この方法で残業は確実に減ります。無駄な残業が減らない理由は、会社(上司)が考える「無駄な残業」と社員の考える「無駄な残業」にずれがあるからです。つまり、仕事の優先順位にずれがあるからです。
この優先順位のずれをなくすために、毎朝、その日に行うタスクを優先順位とともに記載させて提出させている会社も多いでしょう。テレワークが普及してから、特に増えたと私は感じています。しかし、その通りには仕事は進みません。なぜなら、毎日、新しい要件が入ってくるからです。
そうなると、つい、緊急ではあるけれど重要ではない業務を優先して行う社員が出てきます。
したがって、残業の申請をさせる際にも、仕事の優先順位のずれを正す必要があるのですが、それは、終業時刻になってからでは遅いのです。
なお、「このような方法は面倒だ」というご意見もいただきますが、全社員に行う必要はありません。残業を申請してきた社員のみでかまわないのです。当然、残業が多い社員であればあるほど、上司との間で優先順位のずれを正す機会が増えます。
毎日、この方法で優先順位のすり合わせをしていると、上司と部下で考える業務の優先順位が一致してきます。最初は、面倒ですが、徐々に、時間も短くなってきます。コミュニケーションも促進され、「やってみて良かった」というご意見を多くいただきます。
私のクライアント企業のある部署(社員数5人)では、この方法で最終的に月100時間以上の残業を減らすことができたとのことです。内容は会社によって多少変えています(※)が、多くの会社で効果を挙げています。残業は、少しの工夫で減らすことができるのです。
(※)「終業時刻の少なくても2時間前までに」の部分を「残業をすることが確実となった段階で」と変えたり、タスクに想定される時間を書かせたりしている会社もあります。
最後まで、お読みいただき、ありがとうございました。
プロフィール
特定社会保険労務士/事業承継士 小嶋裕司
フェスティナレンテ社会保険労務士事務所(https://www.festinalentesroffice.com/)
労働時間(残業・残業代)の問題解決に強い就業規則の専門家。解決事例数323(2021年10月末日時点)。また、人間関係の相談が多いのが特徴で、組織活性の手法で解決に取り組んでいる。ファシリテーター歴10年。青山学院大学社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラム卒業。