【専門家コラム】契約書だけではリスクがある!フリーランス保護法に対応するための留意点とは

公開日:2025年2月12日

 

契約書だけではリスクがある!フリーランス保護法に対応するための留意点とは


<榎本・藤本・安藤総合法律事務所 弁護士・中小企業診断士 佐久間 大輔>

 

「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(以下「フリーランス保護法」という)が2024年11月1日に施行された。

同法は、特定受託事業者(フリーランス)にかかる取引の適正化や就業環境の整備を目的とし、下請代金支払遅延等防止法と同様の規制をするとともに、労働者類似の保護を与えている。

本稿では、労働者性とハラスメント防止義務に絞り、企業の対応方法を述べることとする。

 

フリーランス保護法の概要

フリーランス保護法は、特定受託事業者につき、[1]業務委託の相手方である事業者であって、[2a]従業員を使用しない個人、または[2b]1人の代表者以外に他の役員がなく、かつ、従業員を使用しない法人と定義している(2条1項)。

「従業員を使用しない」とは、1週間の所定労働時間が20時間未満または雇用期間が継続して30日以内である従業員(派遣労働者を含む)や、同居の親族が当たるので、特定受託事業者の雇用状況によって変化するものであり、取引中に従業員を使用しなくなった場合に留意する必要がある。

一方、特定受託事業者に業務委託をする事業者を業務委託事業者という。そのうち、従業員を使用する個人か、2人以上の役員があり、または従業員を使用する法人を特定業務委託事業者という。

労働者類似の保護として、次に掲げる義務(12~16条)が定められており、これは特定業務委託事業者が負うものである。

▽募集情報の的確な表示
▽6か月以上の継続的業務委託における妊娠・出産・育児・介護に対する配慮
▽ハラスメント対応に必要な体制整備や不利益取扱いの禁止
▽継続的業務委託にかかる契約解除・不更新の30日前予告と理由の開示

また、労働条件の明示と類似する義務として、給付の内容、報酬の額、支払期日、給付の受領や役務の提供を受ける期日・期間および場所などを書面または電子メール等で明示する義務がある(3条1項)。

これは、特定業務委託事業者だけでなく、業務委託事業者も負うことになるので、注意が必要だ。

 

労働者性と実態に即した契約書の整備

労働者が柔軟な働き方をしやすい環境を整備するため、非雇用型テレワークや副業・兼業が推進されている。

一方、企業が迅速に事業展開をするためには、フリーランスが持つ余剰能力を外部資源として活用し、自社に不足する経営資源を補完することが一つの方策となる。

これにより、組織が活性化して、新製品開発や新市場開拓を促進できるようになるだろう。

少子高齢化による採用困難時代においては、外部人材を活用することが企業の経営課題となるが、その前提として法的に問題となるのが労働者性である。

裁判例は、①労働者が使用者の指揮監督下において行われているか否かという労務提供の形態、②報酬が提供された労務に対するものであるか否かという報酬の労務対償性によって「使用従属性」を判断している。

具体的には、①について、具体的仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無、業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所・勤務時間に関する拘束性の有無、代替性の有無等に照らして判断する。

また、②について、報酬が一定時間労務を提供していることに対する対価と判断される場合には使用従属性を補強する。

そして、①と②の基準のみでは使用従属性の判断が困難である場合には、③労働者性を補強する要素として、事業者性の程度(機械、器具の負担関係、報酬の額、損害に対する責任、商号使用の有無等)、専属性の程度、その他の事情(報酬について給与所得として源泉徴収を行っていること、労働保険の適用対象としていること、服務規律を適用していることなど)を勘案して総合判断するとしている。

近時も、この判断基準から、宮大工やバイクのテストライダーなどが労働基準法にいう「労働者」に当たるとして労災保険の適用を肯定した判決が言い渡されている。

このように裁判例は、使用従属性について、雇用契約、委任契約、請負契約といった契約の形式にとらわれるのではなく、労務提供の形態や報酬の労務対償性、これらに関連する諸要素を総合考慮し、実質的に判断している。

そのため、特定受託事業者に発注する企業としては、業務委託契約書や請負契約書を作成しておけば足りるというわけではない。

名目が委託や請負であっても、実質的には、仕事の依頼等について諾否の自由がなく、業務内容や遂行方法について指揮命令を受けており、作業時間の拘束があるのであれば、労働契約の実態があると認められ、労働基準法や労働安全衛生法が適用されるリスクが生じる。

仮にフリーランスが業務に起因して負傷した場合は、労働基準監督署が労働者性を肯定し、後から労働保険料を徴収されるということにもなりかねない。

そこで、企業としては、裁判例が挙げた考慮要素を参考にして、フリーランスの業務遂行や時間配分について裁量を認めなければならず、報酬は仕事の成果に応じて支払わなければならないので、その旨契約書に明記すべきだ。

これに対し、実態として労働契約と評価され得るということであれば、労働契約に切り替える決断も必要となるだろう。

 

ハラスメント防止体制の整備

フリーランス保護法は、特定業務委託事業者に対し、セクシュアルハラスメント、マタニティハラスメントおよびパワーハラスメントを防止するため、相談対応など適切に対応するために必要な体制の整備を義務づけている。

その具体的な内容は自社の従業員と同様のものであり、既存の制度を活用すればよい。

しかし、契約の実態から黙示の労働契約の成立が認められると、フリーランスが業務に起因して疾病を発症した場合に安全配慮義務違反になるリスクがある。

たとえ労働者性が肯定されないとしても、使用者は、「特別な社会的接触の関係に入った当事者間の法律関係上の信義則に基づく付随義務」(最高裁判例)としての安全配慮義務を負うので、ハラスメントが発生すれば民法に基づく損害賠償責任を負う可能性がある。

裁判例として、フリーランスの女性がセクハラ行為とパワハラ行為後にうつ状態と診断された事案につき、性的自由を侵害するセクハラ行為のほか、業務委託契約に基づいて男性経営者自らの指示の下に種々の業務を履行させながら、女性フリーランスに対する報酬の支払いを正当な理由なく拒むという嫌がらせにより経済的な不利益を課すパワハラ行為を認定し、男性経営者の不法行為とともに、委託企業の安全配慮義務違反を理由とする損害賠償責任を認めたものがある。

セクハラとともに、いわゆるパワハラ6類型の1つである「精神的な攻撃」が違法になることは、業務委託契約に基づくフリーランスに対しても認められたのだ。

企業としては、フリーランスをハラスメントからの保護対象にするルール作りと社内への周知を徹底することにより、フリーランスに対する安全配慮義務を履行することが望まれるといえよう。


プロフィール

佐久間 大輔
榎本・藤本・安藤総合法律事務所 弁護士・中小企業診断士

1993年中央大学法学部卒業。1997年東京弁護士会登録。2022年中小企業診断士登録。2024年榎本・藤本・安藤総合法律事務所参画。近年はメンタルヘルス対策やハラスメント対策など予防法務に注力している。日本産業保健法学会所属。
著書は『管理監督者・人事労務担当者・産業医のための労働災害リスクマネジメントの実務』(日本法令)、『過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方』(労働開発研究会)など多数。
DVD「カスタマー・ハラスメントから企業と従業員を守る!~顧客からクレームを受けたときの適切な対応とは~」「パワハラ発生!そのとき人事担当者はどう対処する?-パワーハラスメントにおけるリスクマネジメント」も好評発売中。

公式ウェブサイト「企業のためのメンタルヘルス対策室/事業承継支援相談室」

 

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