長期的に労働人口の減少が予想される日本で、企業が持続的に成長し社会的責任を果たすためには、多様性を尊重した働き方を推進することが重要です。
人材の多様性に資する障害者雇用は、単なる法令遵守ではなく企業の経営戦略として大きな可能性を秘めています。
本記事では、障害者雇用の概要と、経営戦略として障害者雇用に取り組むことのメリットや留意点について解説します。
障害者雇用の法的背景と雇用施策の変化
(1)障害者雇用促進法の概要
障害者雇用促進法(以下、「促進法」と言います)は、障害者が職業を通じて社会に参加し、自立した生活を送ることを支援する法律です。促進法では、民間企業や公的機関に対し障害者雇用率(法定雇用率)の達成を義務づけており、現在の法定雇用率は民間企業で2.5%です。
また、令和8年には民間企業の法定雇用率が2.7%に引き上げられる予定です。これにより、従業員37.5人以上の企業には障害者を少なくとも1人雇用する義務が生じます。
促進法は、障害者雇用の促進だけでなく、企業に対して合理的配慮の提供義務や差別禁止義務を課し、障害者が働きやすい職場環境づくりを促しています。
(2)障害者雇用に関する施策の変化
「令和6年障害者雇用状況の集計結果」(厚生労働省、令和6年12月)によると、民間企業に雇用されている障害者は約67万7千人、実雇用率は2.41%となり、雇用者数と実雇用率は共に過去最高を更新しました。
精神障害者(発達障害者も含む、以下同じ)は約15万1千人(令和1年比93.6%増)となっており、身体障害者の約37万人(同4.2%増)、知的障害者は約15万8千人(同23.4%増)に比べて、精神障害者の伸び率が突出しています(図表1「民間企業の5年毎の雇用状況推移」参照)。
図表1 民間企業の5年毎の雇用状況推移
厚生労働省「令和6年障害者雇用状況の集計結果」(令和6年12月)6ページより筆者作成
法定雇用率の引き上げは、障害者の雇用者数の着実な増加に寄与してきましたが、近年はただ単に法定雇用率を満たすためだけで障害者社員の能力開発やキャリア形成を軽視した、「数合わせの雇用」が問題視されています。
そこで令和4年の法改正により、従来の量的な拡大だけでなく、「雇用の質」を向上させる施策が講じられています(詳細は次号で解説します)。
人材不足の解消策としての障害者雇用の可能性
(1)障害者雇用が持つ経営上のメリット
多くの中小企業で深刻な人材不足に直面しています。この問題を解決する一つの手段となる障害者雇用は、以下のような経営上のメリットをもたらします。
連載:人材不足時代の障害者雇用は毎月更新いたします。
プロフィール
木下文彦
ラグランジュサポート株式会社(https://lagrange-s.com/) 代表取締役
特定社会保険労務士、中小企業診断士
前職では主に法人営業および営業企画に従事し、人事部では障害者雇用部門の責任者として、採用・定着・教育研修・評価など全社70 名の雇用管理全般を統括した。
独立後は企業に対する障害者雇用コンサルティングを展開し、障害者雇用促進を通じて、障害の有無にかかわらず社員がここで働きたいと思える会社づくりを支援している。