年次有給休暇(以下、「年休」という。)の取得に関して、「年5日の取得義務」と「5日を超える分の計画的付与」という2つの異なる概念・制度が存在します。
先日、私がある労務担当者から年休について相談を受けたのですが、これらの区別に混乱をきたしていることが原因でした。
本記事では、年休の時季指定義務と計画的付与の違いと関係を整理します。この解説が、労務担当者などが制度の混同を避け、適切な年休管理を行う一助になれば幸いです。
年休の時季指定義務
全ての企業において、年10日以上の年休が付与される労働者に対して、年休の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが必要となっています。これを、年休の時季指定義務といいます。
もちろん、年休は労働者が自由に取得日を決めることができますので、自主的に年5日取得していれば、会社に時季指定を行う必要はありません。
ここで、「時季を指定して取得させる」というのは、例えば、年休がまだ3日しか取れていない部下がいた場合、上司がその部下に「年度内に最低あと2日取得してください。大体いつくらいに取れそう?」と意見を聞いた上で、「では、その日に年休取ってください。」と指定することをいいます。
法令上は、労働者の意見を聴いてそれを尊重するよう努力してください、とあります。そのため、上司が一方的に取得日を決めるのではなく、部下の意見を聞く、という過程は飛ばさないことをおすすめします。
年休の計画的付与
時季指定義務とは別に、年休の計画的付与という制度があります。これは、付与された年休のうち、年5日を超える日数分については就業規則への記載と労使協定を締結することで、あらかじめ日を決めて計画的に年休を消化することができる制度です。
年5日については、労働者が自由に年休を取得できるよう確保しておく必要があります。
一斉に年休取得日などを決めることで、労働者は気兼ねなく年休が取得でき、会社としても年休取得率をあげることができます。
例えば、ある事業所の労使協定において、一斉年休取得日として、創立記念日とゴールデンウィーク中の1日の計2日間の計画を立てたとします。
年12日付与される従業員がいた場合、計画的年休で2日間消化したことになり残り10日分については自由に利用できることになります。
時季指定義務と異なる点は、計画的付与の導入は義務ではないことです。そして、導入するためには、就業規則への記載と労使協定の締結が必要です。
時季指定義務と計画的付与の整理
ここで、どちらの制度にも年5日というキーワードがでてきました。
また、時季指定と計画的付与、どちらも主に会社主導(労使協定は労使ですが)による年休を取得してもらうための制度であるため、冒頭の労務担当者のように混乱する原因になっているのではと思われます。
そこで、整理すると、
①年休は、労働者が自由に日を指定して取得するのが原則。
②例外として、年5日は労働者に年休を消化してもらう必要があるため、取得日を指定する義務が会社にある(時季指定義務)。
③会社が②の義務を果たすため、あるいは、さらに年休の取得率をあげるため、就業規則への記載と労使協定の締結によって計画的付与制度を導入することができる。
計画的付与で取得した年休は、「年5日」に含まれる
上記③でさらっと書いたのですが、労働者に取得してもらう「年5日」には計画的付与で取得した年休は含むことができます。
つまり、従業員Aさんが年12日の年休が付与された場合、計画的付与で3日、Aさん自らの申請で4日取得したのであれば、年7日消化したことになります。そのため、会社はさらなる時季指定をする必要はありません。
それに対して、Aさんが計画的付与で3日取得しているのみであれば、会社は「あと最低2日は年度内で消化してください」というアプローチが必要となるのです。
計画的付与を行う際によくある質問
「年2日、年休の一斉取得日を設けたいが、従業員の中には残日数が少ない者や入社して間もない者もいます。その場合、どうしたらいいですか。」という質問を受けることがあります。
このように、会社で一斉取得日を計画する場合、新規採用者などで5日を超える年次有給休暇がない従業員もでてきます。その場合の取扱いを事前に決めておき、労使協定の中に記載しておく必要があります。
取扱いの方法としては、次のいずれかになります。
・一斉の休業日について、有給の特別休暇とする
・一斉の休業日について、休業手当として平均賃金の60%以上を支払う
今回は、時季指定義務と計画的付与の違いや関係性について整理することに主眼を置きました。
そのため、計画的付与の導入手続きについてはあまり触れていません。就業規則への記載方法や、労使協定の内容について分からないことがあれば、社会保険労務士などの専門家に確認するようにしてみてください。
プロフィール
三谷社会保険労務士事務所 所長
大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。