労働基準監督署調査への対応方法①
~調査の流れと指摘を受けやすい事項~
<<社会保険労務士事務所Bricks&UK 代表 四宮寛子/PSR会員>
労働基準監督署は、毎年任意に対象企業を選び、労務管理が法令に基づき適正になされているかどうかを調査しています。
また、調査は労働者などからの通報で行われることも。
抜き打ちの場合もあるため、何を見られるのか、どう対策すべきかを心配する声も多く聞かれます。
この記事では、労働基準監督署の調査の流れや、提示を求められる書類、指摘を受けやすい事項について解説します。
労働基準監督署の調査とは?
労働基準監督署の調査には、4つの種類があります。
計画的に実施される「定期監督」と、労働者の申告等により実施される「申告監督」、以前に受けた是正勧告への対応を確認する「再監督」、労災発生時に原因究明や再発防止の指導を行う「災害時監督」です。
最も多いのは定期監督で、令和4年度は約14万件が実施されました。
申告監督は約1万6千件、再監督は1万2千件となっています。
調査の流れと確認事項
調査は、労働基準監督署から出頭要請が来る場合と、労働基準監督官の立ち入りで行われる場合があります。
立ち入りによる調査の場合、事前に通知があるかどうかはケースバイケースです。
いずれのケースでも、次のような書類を重点的に確認されます。
<確認される主な書類>
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出勤簿や賃金台帳は過去半年~1年分程度を求められます。事前に通知があれば、データで保存している帳簿等を出力しておきましょう。
まずは、労働基準監督官から事業場の状況についてヒアリングがあります。主な内容は、従業員数やその内訳(男女別労働者数、外国人労働者数、障害者雇用数、18歳未満の労働者数)、事業場内最低賃金についてです。
続いて、労働基準監督官が書類を基に、次のような内容について調査します。
<調査での主な確認事項>
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調査の結果、法令違反があった場合には「是正勧告書」が、法令違反がない場合でも、改善が必要な場合には「指導票」が交付されます。
是正勧告や指導票を受けた場合には、労働基準監督署が指定した期日までに改善し、是正報告書を提出して終了です。
是正を行わない場合は再監督が行われるほか、悪質と判断されれば送検されることもあります。
指摘を受けやすい事項
筆者が中小企業の定期監督に同行する中で、指摘を受けやすいと感じている事項は次の通りです。
1)残業時間が36協定書の限度時間を超えている
36協定書の届出はしているものの、特別条項を締結せずに法律の上限(月45時間年間360時間)を超えて時間外労働をしているケースや、特別条項があっても定めた限度時間を超えているケースも見られます。
令和元年4月(中小企業では令和2年4月)以降、時間外労働の上限超えに罰則が規定されているので注意が必要です。
2)賃金控除協定を締結せず税金や保険料以外を天引きしている
社宅使用料や積立金などを給与から天引きしているにもかかわらず、賃金控除の協定書を締結していない場合にも指摘を受けます。
協定が自動更新となっており、当初に規定した項目について追加を忘れていたというケースもあります。
協定の締結後も、定期的に内容を確認するようにしましょう。
3)健康診断の結果、異常の所見があるにもかかわらず医師の意見を聞いていない
医師の意見を聞く義務があることを知らなかったケースや、産業医がおらず意見を聞いていないというケースも散見されます。
産業医の選任義務がない(従業員が常時 50 人未満)場合は、「地域産業保健センター」のサービスを無料で利用できるので、積極的に活用しましょう。
4)有給休暇の取得義務化が守られていない
働き方改革関連法により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、年5日の取得が義務化されました。
それに伴い年次有給休暇に関する指摘は増えており、是正勧告に従わなかった会社と代表取締役が送検されるケースも出ています。
5)賃金未払いが生じている
月給制の時間単価を計算したら最低賃金を下回っていたなど、指摘されて初めて未払いに気づく場合もあります。
また、変形労働時間制の勤怠集計方法に誤りがあり、割増賃金が不足していたというケースも少なくありません。
こうした点に留意し適切な労務管理をしていれば、労働基準監督署の調査が来ても心配することはありません。
給与形態や規定などが複雑な場合は、就業規則の規定や実務に問題がないかを専門家に確認しておくことをおすすめします。
【参考】
プロフィール
四宮寛子
特定社会保険労務士/医療労務コンサルタント
社会保険労務士事務所Bricks&UK(https://bricksuk-sr.biz/)代表
大学卒業後、大手銀行関連会社にて給与計算、労働・社会保険手続きを担当。2006年社会保険労務士試験合格、翌年開業。中小企業の経営者に寄り添った労務顧問サービスを展開、助成金の申請にも力を入れている。近年は社労士業務の製販分離にも着手し、手続き業務や給与計算業務の生産管理システムを導入。業務の可視化を行い、誰でも業務に当たれるようにしている。著書に新日本法規「新しい働き方対応 会社経営の法務・労務・税務」共同執筆(2022年)がある。