【専門家コラム】定期健康診断の実施。その後会社が行うべき対応とは

公開日:2024年7月17日

定期健康診断の実施。その後会社が行うべき対応とは


<三谷社会保険労務士事務所 所長 三谷 文夫/PSR会員>

1年に1回の定期健康診断。ほぼすべての企業では実施しているものと思います。

しかし、実施して終わり、になっていないでしょうか。

健康診断の結果に基づいて会社が行う就業上の措置に関しては、厚生労働省から指針もでています。

企業の安全配慮義務、従業員の健康管理の観点から、自社の健康診断フローを確認しておきましょう。

 

健康診断実施後に会社が行うべき対応

定期健康診断の実施義務

会社には、労働安全衛生法(以下、「法」という)第66条により、定期健康診断(以下、「健康診断」という。)を実施する義務があります。

この健康診断は、常時使用する労働者に対し、1年以内に1回実施する必要があります。

異常の所見があれば医師の意見を聴く

会社は、健康診断の結果、健康診断の項目に異常の所見ありと診断された労働者について、医師の意見を聴かなければなりません(法第66条の4)。

健康診断の結果には、各健康診断実施機関によって、異状なし、経過観察、軽度異常、D判定、要再検査、要精密検査、など様々な判定がなされます。

ここでいう「異常の所見」がこれらのどのレベルの判定をいうのかについて法令上明確な定義があるわけではありません。

しかしながら、「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針(平成29年4月14日)」(以下、「指針」という。)では、医師による診断区分として、異常なし、要観察、要医療等と判定を受けるものとされていることから、実務的には「異常なし」以外は異常の所見ありと評価すべきと考えます。

そのため、例えば、定期健康診断結果報告書の各診断項目の有所見者数の欄には、異常なし以外の労働者数をカウントすることになります。

このように「異常の所見」がある労働者については、医師の意見を聴く必要があるのですが、産業医のいる事業所は産業医で構いません。

産業医の選任義務のない事業所の場合であっても、指針では、労働者の健康管理等を行なうのに必要な医学に関する知識を有する医師等から意見を聴くことが適当とされており、このような医師が対応してくれる地域産業保健センターを活用するとよいでしょう

労災保険の二次健康診断等給付と受診勧奨

異常の所見の中でも、血圧や血中脂質など脳や心臓に負担がかかる項目つき異常があった場合、労働者災害補償保険法による二次健康診断の対象となります。

会社は、二次健康診断を受診させる義務はありません。

ただ、指針では、二次健康診断の対象労働者を把握し、受診勧奨の上、診断結果を会社へ提出するように働きかけることが適当である、と述べています。

会社の安全配慮義務(労働契約法第5条)を果たす観点からは、少なくとも受診勧奨はしておくべきでしょう。

二次健康診断は、労災保険給付の一種であるため、1年度内に1回、無料で受診することができます。

また、二次健康診断の結果に基づいて、脳・心臓疾患の予防を図るために、医師または保健師による特定保健指導を、こちらも1年度内に1回、無料で受けることができます。

これらの制度を利用することで、二次健康診断の受診を勧奨しやすくなるではないでしょうか。

「要再検査」の労働者に受診させる義務はあるか

異常の所見ではあるが、「要再検査」や「要精密検査」といった二次健康診断の対象とはならない判定を受けた労働者がいた場合はどうでしょう。

指針では、「再検査又は精密検査を行う必要のある労働者に対して、当該再検査又は精密検査受診を勧奨するとともに、意見を聴く医師等に当該検査の結果を提出するよう働きかけることが適当である。」とされています。

やはり、先述の二次健康診断と同様、受診させる義務はありませんが、受診勧奨は行いましょう。

一方、再検査や精密検査は、診断の確定や症状の程度を明らかにするものであるため自費で受診する必要があります。

そのため労災給付として無料で受診できる二次健康診断等とは異なります。再検査等を受けやすくするために、再検査等の受診料を補助する制度を設けている会社もあります。

健康経営の取り組みとして考えてみてはいかがでしょうか。

注意点としては、特殊健康診断(例えば、放射線業務健康診断、鉛健康診断等)については、再検査や精密検査を実施する義務があります。

法令上の義務であるため費用は会社負担となります。

医師による意見を聴いたうえで会社が行うべき措置

健康診断の結果や、(受診した場合の)二次健康診断又は再検査や精密検査の結果とあわせて、医師の意見の意見を聴くことになります。

指針によると、医師は、「通常勤務」「就業制限」「要休業」の3つの区分で、評価することになっており、個人ごとの健康診断結果票における医師等の意見欄に記載します。

その後、会社としては、「就業制限」あるいは「要休業」と評価された労働者について、就業上の措置を考えることになります。

「就業制限」の具体的な措置としては、勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置が挙げられます。

「要休業」の場合には、療養のため、休職制度を利用する、療養休暇などの特別休暇、年次有給休暇などの活用も含め、一定期間勤務させない措置を講じる必要があります。

 

以上のように、定期健康診断は、実施して終わり、ではありません。

診断結果に応じた対応が法令あるいは指針で求められています。この機会に自社の健康診断実施のフローを確認しておきましょう。

 

 

プロフィール

社会保険労務士・産業カウンセラー 三谷 文夫
三谷社会保険労務士事務所 所長 

大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。

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