【専門家コラム】持ち帰り残業にも賃金が発生!?賃金未払トラブルを避ける方法とは?

公開日:2024年6月26日

 

持ち帰り残業にも賃金が発生!?賃金未払トラブルを避ける方法とは?


<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員>

「納期の迫った仕事が終わらなかったので、家で仕事をしました。残業代を支払ってください」

従業員からそのように言われたらそのまま残業代を支払いますか?

残業代の認識については、労使で認識の違いにギャップが起きやすいと言えます。

従業員側から見れば、仕事をすればその時間は労働時間であると解釈します。

しかし、会社側はそのすべてを受け入れて残業代の支払をしなければならないのでしょうか。

仕事をしている時間が労働時間と判断されるには、ある要件が必要となります。

残業代未払のトラブルを避けるために必要な知識についてお話ししましょう。

 

労働時間であると判断されるには○○であることが条件です!

従業員がしている仕事の時間が労働時間であると判断されるためには、一般的に使用者の「指揮監督」のもとにあることが必要になります。

つまり、従業員の置かれている環境が会社の支配下にあるかどうかがポイントとなります。

一番分かりやすいのは、始業時間から終業時間までの勤務時間です。

通常、勤務時間中に仕事以外のことをすることは禁じられていて、サボっているのが分かると懲戒の対象となります。

しかし、勤務時間以外の時間、たとえば始業時間前の朝礼であったり、終業時間後の残業となると会社側と従業員側で労働時間に対する考え方にギャップが生じやすくなります。

ここで大切なことは、「会社の支配下」にある状態というのは、単に具体的な業務の指示が出ているときだけでなく、会社の慣習として事実上業務となっている場合も含みます。

先ほどの始業時間前の朝礼を例に取ると、もし従業員が朝礼に参加しなかったときに、上司から「なぜ朝礼に参加しないんだ」と注意を受けるような場合は、朝礼は事実上の業務であると判断される可能性が高くなり、朝礼に参加している時間は労働時間であるとして賃金が発生する可能性が出てきます。

さて、そのような観点から見た場合、持ち帰り残業が労働時間になるのかどうかについてですが、上司から仕事を持ち帰るよう具体的な指示がなかったとしても、納期が迫っていて家に仕事を持ち帰らざるを得ないような状態であった場合、家で行った仕事の時間は労働時間であると判断される可能性が生じます。

逆にいうと、従業員が勝手に家で仕事を行っていた場合は、労働時間とならない要素が強くなりますが、従業員から「残業代を支払ってください」と要求された場合、「それは業務ではない」と判断するには根拠が必要となります。

では、残業に関するトラブルをさけるために会社側はどのような運用をするべきなのでしょうか。

 

残業代トラブルを避けるために会社側が取る対策とは

そもそも論ですが、使用者(会社側)には、労働時間を管理する責務があります(労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン)。

つまり、会社側は労働者がいまどのような状況に置かれているのかについて把握をしておく必要があるということです。

なので、始業前の朝礼や終業時間後の残業についても、会社側の指揮監督下にあるかどうかについて従業員に分かりやすい形で明確にしていくことになります。

具体的には、会社が従業員に朝礼に参加して欲しいのであれば始業時間後に実施する、終業時間後の残業については、原則として事前承認制を導入するということが考えられます。

また、会社が従業員に支払うお給料についても、どの仕事に対して支払っているのかを明確にしていくことも有効です。

これは、最近よく耳にする「ジョブ型」に近い運用ですが、賃金の支払根拠を明確にしていないために、有名私立大学が非常勤講師に対する賃金未払いの是正勧告を労働基準監督署から受けたのは記憶に新しいですね(大学側は是正勧告書の受取を拒否しています)。

問題となったのは、授業前の教材作成にかかった時間に対する賃金ですが、使用者である大学側は、支払っている賃金は教材作成を含めたものであると主張しているのに対し、非常勤講師は、基本となる賃金は授業本体に対してのもので、教材作成にかかる時間は別途賃金が発生していると主張して労働基準監督署に申告しています。

労働基準監督署も非常勤講師の主張を受け入れて大学に対して是正勧告をしようとしたわけですから、明日は我が身という認識を持った方が良いでしょう。

このように、残業代のトラブルを防ぐためには、従業員の労働時間に対して指揮監督下にあるかどうかの区別と、賃金と業務内容を明確にしておくことです。

しかし、具体的にどのように進めれば良いのか迷う場合は、労務管理のプロである社会保険労務士に相談するようにしましょう。

 

 

 

プロフィール

社会保険労務士 山口善広

ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/

営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。

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