1.出向に関する規定例
会社の出向命令権、労働者の出向義務それぞれについて就業規則にて明確に規定する必要があります。
例えば、「会社は、業務上の必要がある場合、関連会社等への出向を命ずることがある。従業員は正当な理由なくこれを拒むことはできない。」このような規程が必要です。
2.労働条件だけ明示されている場合は?
「出向を命ずることがある」という明確な規程をおかずに、「出向する場合の労働条件は・・・とする」と労働条件を定めただけでは、出向が就業規則で定められたとはいえません。この場合、出向命令の根拠がなく、出向が認められないことがあります。 一方、出向に当たっての労働条件が明示されていない場合であっても、直ちに出向命令が無効とされるわけではありません。
ただ、トラブルとなることを防ぐためにも、出向中の労働条件等については、就業規則にできる限り具体的に規定するようにしましょう。
3.新たに出向に関して規定できるのか?
今まで就業規則に出向に関する規定がなく、個別同意により出向を命じていた場合、新たに就業規則に出向に関する規程を設け、これを根拠に出向を命じることができるのでしょうか?
今までは個別に同意を得た場合に出向を命じていたのが、今後は就業規則により一方的に出向を命じられることになります。この場合、就業規則の不利益変更とされ、無効とされないか、という問題が生じます。
今までの判例を見ると・・・
1.規程が合理的なものであるかぎり、個々の労働者の同意がないことを理由に適用を拒否することは許されない(秋北バス事件・最高裁大法廷 昭和43.12.25判決)
2.就業規則の不利益な変更に当たるとしても、すでに労働組合との協議を経て労働協約も締結されており、合理的なものと解される(ゴールド・マリタイム事件 最高裁 平4.1.24判決)
つまり、次のような点で就業規則に合理性が認められれば、新たに就業規則に規定した出向規程を根拠に出向命令を出せることになります。
・ 出向に関する規程の内容が合理的である
・ 新たに規定する必要性がある
・ 従業員と協議がされ、合意を得ている
・ 出向における労働条件の内容が明記されている
就業規則に出向規程を設ける場合には、必要な内容を盛り込むことはもちろん、一般的な見地からみてその内容が合理的がどうか検証し、必ず従業員と協議をし、できる限り合意を得てから施行するようにしましょう! 〈社会保険労務士 PSR正会員 新島 哲〉