<いろどり社会保険労務士事務所 内川 真彩美/PSR会員>
ここ数年、メンタル不調者が増加しています。特にコロナ禍では、密を避けるために人とのコミュニケーションが希薄になったり、テレワークや時差出勤で働き方や生活スタイルが変わったりと、社会の大きな変化により、より多くの方のストレス増加に繋がっています。そんな中でも、会社としては労働者のメンタル不調を未然に防止したいものです。そこで今回は、「ストレスチェック制度」について改めて確認しておきましょう。
労働者50人以上の事業場ではストレスチェックが義務
「ストレスチェック」とは労働安全衛生法に定められている制度で、ストレスに関する質問票に労働者が回答し、それを集計・分析することで、自分のストレス状態を調べる検査です。労働者が50人以上の事業場では、2015年12月より、毎年1回、労働者に対してストレスチェックを実施することが義務付けられていますので、ご存知の方も多いと思います。
実施手順は以下の通りです。
① 労働者に質問票を配布し、記入してもらう
使用する質問票は、以下の3つが含まれていれば特に指定はありません。何を使えばよいかわからない場合には、国が推奨する質問票がありますし、専門の業者を利用する方法もあります。
・ストレスの原因に関する質問項目
・ストレスによる心身の自覚症状に関する質問項目
・労働者に対する周囲のサポートに関する質問項目
② ストレス状況の評価・医師の面接指導の要否の判定
③ 本人に結果を通知
①~③で注意しなければいけないのは、ストレスチェックを実施できるのは、医師、保健師、厚生労働大臣の定める研修を受けた看護師・精神保健福祉士のいずれか、という点です。労働者から質問票を回収するのも、面接指導が必要な労働者を選ぶのも、労働者への結果の通知も、行うのはすべて前述のストレスチェック実施者です。
個人結果を元にセルフチェックと面接指導を
結果は個人情報になりますので、本人の同意がない場合には、個人の回答を会社が入手することはできません。そのため、自分のストレスがどのような状態にあるのかを労働者本人に自覚してもらい、セルフケアに生かしてもらうことになります。
また、ストレスチェックの結果で「医師による面接指導が必要」とされた労働者から申し出があった場合には、医師の面接指導を実施します。ストレスチェックが義務化されている規模の事業場では産業医の設置義務があるため、産業医との面接指導を設定するのが一般的です。面接指導した医師からは、就業上の措置の必要性やその内容について意見を聞き、労働時間の短縮などの必要な措置を実施します。医師による面接指導と聞くと、評価に関わるのではないか、会社から何かレッテルを貼られるのではないか、という感情から、面接指導を申し出ない労働者も多くいます。そのため、申し出のしやすい職場環境作りも重要です。
集団結果を元に職場環境の改善を行う
前述の通り、個人の結果は取得できませんが、集団での結果は取得できます。ストレスチェック実施者に依頼し、部や課等、集団ごとの集計・分析結果を提供してもらうことが可能です。
その結果があれば、特定の部署に負荷がかかっていないかといった、集団ごとのストレス状況が把握できます。それを元に、例えば、高ストレス状態の職場の管理職と面談をしたり、時間外労働の抑制や、年次有給休暇取得推奨、勤務間インターバル制度の導入等、会社として対応を考えることが可能です。
ただし、その集団の規模が10人未満の場合、個人のストレスチェック結果が特定されるおそれがあります。そのため、10人未満の集団の結果を取得する場合には、その集団全員の同意が必要となりますので、原則10人以上の集団を集計・分析の対象としましょう。
ストレスチェックの実施状況は毎年労基署に届け出る
ストレスチェックの実施状況は、労働基準監督署に報告する必要があります。決められた報告書様式がありますので、必要事項を記載し提出します。
記載内容は、検査を実施した月や、在籍労働者数、検査を受けた労働者数、面接指導を受けた労働者数等です。特に難しい項目はありません。
ストレスチェックは年に1回実施しますが、このチェックだけでメンタルヘルス対策が完璧というわけではありません。メンタルヘルス研修や相談窓口の設置、各種制度の整備等、複合的な対策を取ることが推奨されます。また、普段の会話等から、その方の「いつもと違う」をいち早く察知することも、メンタルシックの予防に繋がります。
メンタル不調は予防が重要です。その手段やきっかけの1つとして、ストレスチェックを上手に活用していきましょう。
プロフィール
いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)
特定社会保険労務士/両立支援コーディネーター 内川 真彩美
成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自 分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。