< ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員 >
健康保険法が改正され、令和4年1月1日以降、傷病手当金の支給期間の通算化が可能となりました。これまでは、傷病手当金の支給開始日から1年6ヶ月が支給期間のリミットでしたが、通算化が行われると、傷病手当金が実際に支給された期間の合計のマックスが1年6ヶ月ということになります。では、この傷病手当金の通算化が行われるとどういうことになるのか、まずは傷病手当金の仕組みからご説明しましょう。
そもそも傷病手当金とは
傷病手当金とは、健康保険の被保険者が、病気やケガのために働くことができない場合に、被保険者の生活を保障するための制度です。
傷病手当金が支給されるには、病気やケガの原因が業務外であることが条件です(業務中の場合は労災保険の給付対象となります)。
また、傷病手当金の支給には待期期間をクリアする必要があり、連続して3日間の待期期間を経て4日目以降も仕事に行けない日に対して支給されます。
ちなみに待期期間は、土日などの休日も含まれます。
ただ、仕事を休んだ日について年次有給休暇など事業主から報酬を受けた場合、その金額が傷病手当金よりも多いときは傷病手当金は支給されません。
支給金額は、原則として、支給開始日以前12ヶ月間の各標準報酬月額を平均した額を30で割って、さらに3分の2にした金額となります。
支給開始日以前の期間が12ヶ月ない場合は、入社してからの標準報酬月額の平均額と、健康保険の被保険者全体の標準報酬月額の平均額(30万円)のどちらか低い方が採用されます。
支給期間は、先ほども述べたように傷病手当金の支給開始後1年6ヶ月がリミットです。
そのため、病気やケガが完治していなくて、満足に仕事に行けない場合でもリミットが来れば受給できなくなってしまうのです。
ということは、たとえばガンに罹ってしまったときに、仕事を続けながら治療を続けていて、治療で仕事に行けない日について傷病手当金を受給している最中に、正味の1年6ヶ月分の傷病手当金を受給できないままリミットが来てしまうことも有り得るわけです。
ということで、仕事と治療を両立させるために傷病手当金の支給要件が見直されることになったのです。
では、支給期間が通算されるとどうなるのか見てみましょう。
傷病手当金の支給期間が通算されるとどうなるのか
傷病手当金の支給期間が通算されると、出勤した日については傷病手当金の支給期間から外されるので、会社を休んだ日の合計が1年6ヶ月になるまで傷病手当金を受給することができるようになります。
対象となるのは、令和4年1月1日時点で傷病手当金の支給期間がまだ1年6ヶ月を経過していない人です。
具体的には、令和2年7月2日以後に傷病手当金の支給が開始されたことが通算化の対象となるわけです。言いかえると、傷病手当金の支給開始が令和2年7月1日以前の場合は、改正前の規定が適用されます。
そして、1年6ヶ月をどのように計算するのかというと、3日間の待期期間を過ぎて傷病手当金の支給開始日となる4日目から暦日(カレンダーの日数)で1年6ヶ月の日数を計算します。
たとえば、令和4年3月1日に労務不能になり、待期期間の3日を経ると、傷病手当金の支給開始日は3月4日になります。支給開始日の1年6ヶ月後は、令和5年9月3日ということで、日数を計算すると549日となります。
つまり、傷病手当金の支給日数は、この場合549日となり、仕事に行った日はこれに含まれず、労務不能と認められた日について傷病手当金が支給され、支給日数が消化されていくという考え方になります。
また、傷病手当金の支給開始後に報酬を受け取ったり、障害年金などとの関係で併給調整が行われた結果、傷病手当金を受給できなかった期間があると、傷病手当金が不支給になった期間については、支給日数の消化は行われません。
ですので、たとえば1年間休職をしたとしても、残りの6ヶ月については、出勤と治療を繰り返すような形で傷病手当金を活用することで、いわゆるリハビリ出勤の制度も運用しやすくなるので、従業員の離職防止にも役立てることが可能となります。
ただ、労務管理の面から見た場合、これまでは支給開始日から1年6ヶ月経過した日だけを意識していれば大丈夫でしたが、支給期間が通算化されると、会社を休んだ日をきちんとカウントしておく必要が出てくるので、管理方法をあらためる必要が出てくるでしょう。
今後、どのような方法に更新するのかについては、労務管理のプロであるお近くの社会保険労務士にご相談されてみてはいかがでしょうか。
<参考URL>
・傷病手当金について
https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000619554.pdf
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