【専門家の知恵】退職後の医療保険選択が変わる? 2022年1月の「健康保険の任意継続制度」の改正

<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>  

 企業を退職した場合に利用可能な「健康保険の任意継続制度」。この制度が2022年1月、一部改正されることが決まっている。果たして、本制度の改正は、企業を退職する社員の公的医療保険の選択に変化を及ぼすことになるのだろうか。今回は、任意継続制度の改正内容とその影響を整理してみよう。

 

任意継続の「資格喪失」と「保険料算定」が改正へ

 退職後も最大で2年間、在職中に入っていた健康保険に加入できる任意継続制度。この制度が、2022年1月から2つの点で改正される。

 1番目は、任意脱退が可能になる点である。

 実は、現行の任意継続は、辞めたいと考えても自由に辞めることができない。任意継続を辞めるには「就職して他の健康保険に加入した」「保険料を期限までに納め忘れた」「任意継続を始めて2年が経過した」などの“定められた事由”に該当することが必要となる。しかしながら、来年1月からはこの点が改正され、従前の“定められた事由”に該当しなくても、希望すれば辞められるようになる。具体的には、辞めたい旨の申し出を行い、その申し出が受理された翌月から任意継続を辞めることが可能になるものである。

 2番目は、健康保険組合であれば、「資格喪失時の標準報酬月額」が高額な場合であっても、その標準報酬月額に基づいて任意継続の保険料額を決められる点である。 

 現在、任意継続の保険料額は、対象者の「資格喪失時の標準報酬月額」と「平均の標準報酬月額(その保険者の全被保険者の平均の標準報酬月額。以下同じ)」とを比較し、“低いほうの標準報酬月額”に基づいて決定される。「資格喪失時の標準報酬月額」のほうが高ければ、「平均の標準報酬月額」に基づいて保険料額を決めなければならない。ところが、来年1月からは法改正により、「資格喪失時の標準報酬月額」が「平均の標準報酬月額」より高い場合であっても、「資格喪失時の標準報酬月額」に基づいて保険料額を決めることが可能になるものである。ただし、この制度を利用できるのは健康保険組合に限られ、協会けんぽでは利用できない。

 

任意継続を途中で辞め、家族の健康保険の被扶養者になることも可能に

 健康保険に加入していた社員が退職する場合、退職後の公的医療保険は健康保険の任意継続を利用するほかに、次の2つの方法が考えられる。

① 「自治体が運営する国民健康保険」に加入する。
② 「家族が加入する健康保険」に被扶養者として加入する。

 ただし、一旦、健康保険の任意継続を始めると、国民健康保険や家族の健康保険に入り直すために任意継続を辞めることは、現在、認められていない。任意継続を辞めるための“定められた事由”の中に、「国民健康保険に加入するため」「家族の健康保険の被扶養者になるため」の2つは含まれていないからである。

 しかしながら、前述のとおり2022年1月からは、本人の自由な意思に基づき任意継続を辞めることが可能になる。従って、来年からは例えば「国民健康保険の保険料額のほうが安くなったので、健康保険の任意継続から国民健康保険に切り替える」「子供が社会人になったので、健康保険の任意継続を辞めて子供の会社の健康保険に被扶養者として加入する」などが可能になるものである。つまり、退職後の公的医療保険について、制度選択の自由度が拡充されるわけである。この点が、今般の法改正の1番目のポイントである。

 

高給取りは任意継続が有利」とは限らない改正制度

 退職後の公的医療保険については、「高給取りは任意継続が有利」と言われることがある。退職時の給与水準が高い場合には、退職後は国民健康保険よりも健康保険の任意継続のほうが、保険料負担が少なくなりやすいためである。

 前述のとおり、健康保険の任意継続の保険料額は、対象者の「資格喪失時の標準報酬月額」と「平均の標準報酬月額」とを比較し、“低いほうの標準報酬月額”に保険料率を乗じて決定される。例えば、「資格喪失時の標準報酬月額」が62万円、「平均の標準報酬月額」が30万円であれば、30万円に保険料率を乗じた額が保険料額となる。低いほうの額を保険料計算の基礎とする分、保険料額も少なく算出されるわけである。

 これに対し、国民健康保険の保険料額は、「前年の所得額」に保険料率を乗じて決定される。しかしながら、「前年の所得額」が高額な場合に保険料額を少なく算出して優遇するような仕組みは、国民健康保険には存在しない。そのため現行制度では、退職時の給与水準が高い場合には、健康保険の任意継続のほうが少ない保険料負担で済みやすいわけである。

 ところが、2022年1月からは、「資格喪失時の標準報酬月額」が「平均の標準報酬月額」よりも高い場合、健康保険組合が規約で定めれば、“高いほうの標準報酬月額”である「資格喪失時の標準報酬月額」に基づいて保険料額を決定することが可能となる。前述の例でいえば、62万円に保険料率を乗じ、任意継続の保険料額を決められるわけである。

 この制度改正を実施すると、任意継続の保険料額が従前よりも多くなる。そのため、保険料収入を増やしたい多くの健康保険組合が、本制度を利用すると予想される。従って、来年からは必ずしも「高給取りは任意継続が有利」とは言い切れないであろう。この点が、今般の法改正の2番目のポイントである。

 制度改正の内容をよく確認し、退職予定者への対応に役立てていただきたい。

 

【参考】
厚生労働省/全世代対応型の社会保障制度を構築するための健康保険法等の一部を改正する法律案の概要
https://www.mhlw.go.jp/content/000733601.pdf

 

プロフィール

 マネジメントコンサルタント、中小企業診断士、特定社会保険労務士 大須賀 信敬
 コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
 「ヒトにかかわる法律上・法律外の問題解決」をテーマに、さまざまな組織の「人的資源管理コンサルティング」に携わっています。「年金分野」に強く、年金制度運営団体等で数多くの年金研修を担当しています。

 

 

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