【専門家コラム】就業時間中の喫煙・離席時間と賃金控除

公開日:2024年4月5日

 

就業時間中の喫煙・離席時間と賃金控除


<株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役 大曲義典 社会保険労務士事務所 所長 大曲義典/PSR会員>

就業時間中の喫煙の取扱いについては、実務上も問題になることが多い。特に、国を挙げて禁煙に取り組んでいる状況においてはなおさらである。法制度上どのようになっているかを確認しておこう。

 

喫煙に関する法規制

2020年4月から施行されている改正健康増進法は、望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の区分に応じ、当該施設等の一定の場所を除き喫煙を禁止するとともに、当該施設等の管理について権原を有する者が講ずべき措置等について定めている。

基本となっているのは次の3点である。

【基本的考え方 第1】「望まない受動喫煙」をなくす

【基本的考え方 第2】受動喫煙による健康影響が大きい20歳未満の者、患者等に特に配慮する

【基本的考え方 第3】施設の類型・場所ごとに、実施禁煙措置や喫煙場所の特定、掲示の義務付けなどの対策を講ずる。

 

なお、法改正後の各施設等における喫煙の禁止等の措置は下図のとおりとなっている。



(出典:「健康増進法の一部を改正する法律案 概要」厚生労働省)

 

ご覧のとおり、オフィスでの屋内喫煙は禁止され、喫煙専用室での喫煙に限定されている。

また、従業員に対する受動喫煙対策として、会社は従業員の「望まない受動喫煙」を防止するため、20歳未満の者を喫煙可能場所に立ち入らせてはならず、受動喫煙を防止するための措置を講ずる努力義務等が課せられている。

採用時にもどのような受動喫煙対策を講じているかについて、募集や求人申込みの際に明示する義務が課せられている。

 

就業時間中の喫煙に対する企業の対応とは

このような喫煙規制が施行されていることから、従業員も就業時間中に喫煙しようとすれば、執務場所から離席することとなる。

そうすると、当該時間は仕事から離れることになるから、会社としては賃金の支払義務はないことになる。

いわゆる、ノーワーク・ノーペイの原則である。周知のとおり、労働基準法の原則は、賃金は働いた時間に対して支払うことになっているから、月給制の会社であってもこの原則は変わらない。

そのため、時間外労働に対しては1分単位で支払わなければならないとされている。

そうであれば、逆に働いていない時間については、1分単位で賃金控除ができることになる。

しかし、実務的には個々の労働者の行動時間を計測することは不可能に近いから、会社の対応としては、以下の3つが考えられる。それぞれの注意点を記しておこう。


① 就業時間中の喫煙離席時間の賃金を控除する

この対応をするときは、前述のように管理の効率性をどう図るかと未払い賃金が発生しないようにしなければならない。

控除できる時間は喫煙によって離席し、業務から離れている時間に限られるから、それを過大にカウントすれば賃金の未払いという問題を孕むことになる。

1回あたりの喫煙離席時間を過少に設定し、喫煙回数を乗じて算定すれば問題はなくなる。また、従業員に仕組を事前に告知しておくべきだろう。


② 就業時間中の喫煙を全面的に禁止する

この対応を採ったときに生じ得る問題は、それが労働条件の不利益変更に該当するのではないかという懸念である。

不利益変更については、その変更に合理性がなければ無効となるが、就業中の離席は職務専念義務違反であり、現下の喫煙を取り巻く社会情勢からは合理性が認められるだろう。

無論、休憩時間中まで禁止することはできないが。


③ 就業時間中の喫煙離席時間の賃金は控除しない

この対応を何等の理由もなく採ることは難しい。

社内でも多数派であろう非喫煙者からは、喫煙者の優遇、非喫煙者への差別と映ってしまう。

もし、この対応を採るのであれば、喫煙離席は許容するが、その時間が就業と遜色ない時間の過ごし方であるとのコンセンサスが得られる手法や両者の公平感を担保する仕組みを導入すべきだろう。

例えば、喫煙離席者に当該時間の報告レポートを毎月提出してもらったり、会社が社内コミュニケーションに意義を見い出しているのであれば、非喫煙者向けにも「カフェスペース」を設けるなどである。

いずれにしても、予断を排除した喫煙及びそれに伴う離席に対する考え方(デメリット・メリット)を会社が整理し、従業員との対話を重ねながら、全体最適につながる対策を講じることが必要である。

そう大層な問題には見えないが、積み重ねは「蟻の一穴」ともなる。慎重かつ大胆に対処しておきたい。

 

 

プロフィール

大曲 義典

株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役(http://www.wbc-associate.co.jp/) 

大曲義典 社会保険労務士事務所 所長

関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。

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