【専門家の知恵】従業員のパワハラ相談を放置すると損害賠償される?!パワハラ防止法を再チェックしましょう!

公開日:2023年11月28日

<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口義広>

令和4年4月に、ある学校法人がパワハラに関する相談を長期間放置し改善策を講じなかったとして、裁判所から慰謝料等110万円と遅延損害金の支払を命じられました。

令和4年4月といえば、中小企業も含めてパワハラに関する防止措置が義務になりましたが、事業主はパワハラに対してどのように向き合えばいいのでしょうか。

ここでは、労働施策総合推進法(以下、パワハラ防止法とする)が事業主に対してどのようなことを求めているのかをご説明し、何をすればいいのかご紹介しましょう。

パワハラ防止法が事業主に求めていることとは

パワハラ防止法では、事業主に対してパワハラを防止するために「雇用管理措置義務」を課しています。

それは、大きく分けて以下のようになります。

1、事業主のパワハラに対する「方針の明確化」とその「周知・啓発」
2、パワハラに関する相談に応じたり適切に対応するための「必要な体制の整備」
3、職場におけるパワハラへの事後の「迅速かつ適切な対応」
4、相談者などに対するプライバシーの保護、相談したことに対する不利益な取扱いの禁止

まず、事業主は企業内におけるパワハラに対する方針を明確にして管理職を含む従業員に周知と啓発を行います。

つまり、就業規則などにパワハラに該当する言動を記載してパワハラを行った者に対しては、ルールに基づいて厳正に対処する旨を明記することで、パワハラを行ってはならない旨を従業員に対して周知を行い、研修などの啓発を行うというものです。

管理職を含む従業員に対しては、どのような言動がパワハラに当たるのかを知ってもらい、パワハラを起こさないよう意識してもらうことがスタートとなります。

次に、従業員のパワハラの相談に対する受け皿を用意します。

これが「必要な体制の整備」となるのですが、具体的には、パワハラ相談窓口などを設置して従業員に周知をすることなどを指します。

この相談窓口は、必ずしも社内で設置をしなければならないものではなく、たとえば顧問先の社労士に委託をするなどの方法もあります。

相談者にとっては、社外の人間の方が相談しやすいこともありますし、事業主の負担も軽減される可能性があるのでお勧めです。

で、実際に相談があった場合は、「迅速かつ適切に対応」する必要があります。

上記の裁判では、相談者が相談窓口に相談したにも関わらず、長期間放置されて改善策が講じられなかったために、労働契約上の安全配慮義務に違反したとされました。

事業主は、従業員からパワハラに関する相談があった場合には、相談者や行為者に対して事実関係を迅速に確認することが求められます。

必要に応じて第三者からも事実関係を聴取する必要もあるかもしれません。

事実関係を聴取したら、パワハラに該当するかどうかの判断をするわけですが、ここで大切なのは、パワハラの有無の認定が目的なのではなく、良好な職場環境を回復することです。

なので、パワハラの認定に必要以上の時間をかけることは、必ずしも相談者や行為者に対して良い影響を与えるわけではないことに留意する必要があります。

必要とあれば、まず双方を業務から引き離すことが有効になることもあります。

その上で、パワハラがあったと事業主が認定すると相談者や行為者に対して適正な措置を実施するわけですが、もし、パワハラと認定しなかったとしても「再発防止策」を講じる必要があります。

再発防止策とは、職場におけるパワハラを行ってはならない旨の事業主の方針などをあらためて周知・啓発することを指します。

仮にパワハラはなかった、という結論に達したとしても再発防止策は打っておかなければならないということですね。

ただ、職場におけるパワハラを防止するためには、相談者が相談しやすい環境を作っておくことが大切です。

せっかく相談窓口などを設置しても、相談者が安心して相談できないと絵に書いた餅となってしまいます。

では、従業員が安心して相談できるようにするにはどうすればいいのでしょうか。

従業員が相談しやすい環境とは

パワハラ防止法では、相談者や行為者など当事者のプライバシーを保護することを求めています。

また、相談をしたことや、事実確認の聴取に協力したことなどを理由に解雇などの不利益な取扱いをされないことを規定して従業員に周知することも定めています。

実際にパワハラの相談に応じる際は、プライバシーの保護や不利益な取扱いをしないことをあらためて伝えた上で話を聴くようにしましょう。

また、行為者や第三者へ事実確認をする際は、相談者の許可を得るようにすることも重要です。

相談したことで、行為者と相談者との関係が悪化することも考えられるからです。

事業主が目指すべきは、職場環境を良好に保つことにありますから、事態の収拾には慎重な対応が求められます。

もし、どうすれば良いか悩む場合は、お近くの社会保険労務士や労働局に相談されることをご検討ください。

 

プロフィール

社会保険労務士 山口善広

ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/

営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。

 

 

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