<社会保険労務士法人出口事務所 代表社員 出口裕美/PSR会員>
「いじめ防止対策推進法」では「「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」と定義付けられています。
一方で、企業でもハラスメント(いじめ・嫌がらせ)に関する法律があります。発言や行動によって他者に不利益を与えたり、不愉快にさせたりすることです。
子どもも大人も法律が必要とされるくらい、「いじめ」があるということです。
大人版「いじめ防止対策推進法」が必要な時代に
以前の職場のトラブルと言えば「解雇」でしたが、近年はその傾向が大きく変わってきました。厚生労働省の「令和4年度個別労働紛争解決制度の施行状況」の図表「民事上の個別労働紛争/主な相談内容別の件数推移(10年間)」をご覧ください。
今年度から、労働施策総合推進法の全面施行に伴い、集計方法が変わり(図表※)、少し比較が難しくなっていますが、いじめ・嫌がらせが職場の最大のトラブルであり、その件数が圧倒的に増加していることが分かります。その他の傾向では、解雇をはじめとして多くのトラブルが減少する中、自己都合退職は継続的に増加しております。深刻な人手不足が続く業界においては、退職させてもらえないといったトラブルや就業規則に基づいた自己都合退職をしていないといったトラブルがこれからも増加しそうです。
図表 民事上の個別労働紛争/主な相談内容別の件数推移(10年間)
※令和4年4月の改正労働施策総合推進法の全面施行に伴い、(これまで「いじめ・嫌がらせ」に含まれていた)同法上のパワーハラスメントに関する相談は全て(同法に基づく対応となり)別途集計することとなったため、令和3年度以前と令和4年度以降では集計対象に大きな差異がある。
主なハラスメント
主に法律に定めのあるハラスメントは以下の通りになります。
① パワーハラスメント(パワハラ)
パワーハラスメントとは、職場の上司と部下の関係を用いて嫌がらせを行うことです。具体例としては、「数時間にわたって叱責を受け続ける」「実務に必要な情報を与えない」などがあります。関連法は労働施策総合推進法です。
②セクシュアルハラスメント(セクハラ)
セクシャルハラスメントとは、性的な嫌がらせや不愉快にさせる発言を行うことです。具体例としては、「恋人の有無等、性的な事実関係を執拗に尋ねる」などがあります。関連法は男女雇用機会均等法です。
③妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント
妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントとは、妊娠・出産で不利な就業環境を強いられたり、制度を利用しないよう迫ることです。具体例としては、「育児休暇を取得させない」「妊娠による退職を迫る」などがあります。関連法は男女雇用機会均等法、育児・介護休業法です。
上記のほかにも以下のようなハラスメントもあります。
ハラスメントの予防と事後対応
職場におけるパワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務になりました。例えば、就業規則に規定したり、研修を実施したり、相談窓口を設置したり、「働きやすい職場のためのアンケート調査」などをしてみてはいかがでしょうか。
そして、ハラスメントの相談があった場合の対応も注意が必要です。本人・相手・第三者に必要に応じてヒアリングをし、事実関係の有無を確認し、事実関係があると判断した場合には、企業で協議の上、対応することが必要です。厚生労働省のパンフレットには具体的な対策方法や対応の流れの例も掲載されておりますのでご参考ください。
ポイントは「ハラスメント(いじめ・嫌がらせ)はいけません。職場でのハラスメントは会社の責任問題」ということです。そして、大人も子どもも他人の権利及び尊厳を尊重し、個性を活かせる社会になることを願っています。
<参考>厚生労働省「職場における・パワーハラスメント対策・セクシュアルハラスメント対策・妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策は事業主の義務です!」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/001019259.pdf
プロフィール
出口裕美
社会保険労務士法人出口事務所 代表社員
(https://www.deguchi-office.com/)
特定社会保険労務士
2004年に社会保険労務士事務所を開業。出産を機に、育児と仕事の両立のためテレワーク(在宅勤務)を開始。2014年に社会保険労務士法人出口事務所に法人化。2017年にテレワーク(サテライトオフィス勤務)を開始。2020年に新型コロナウイルスの取り組みの様子をメディアにて紹介。
経営者と社員が継続的に安心して働ける環境を構築するため、インターンシップ、ダイバーシティ(雇用の多様化)、テレワーク、業務管理システム等を積極的に導入し、また企業への導入支援コンサルタントとしても活動中。