厚生労働省の平成22年度における「精神障害等の労災補償状況」の発表によると、精神障害による労災請求件数は1,181件(前年度に比べ45件増加、2年連続過去最高)でその内、支給決定件数は308件(前年度に比べ74件増加、過去最高)でした。 また、業種別では「製造業」、職種別では「事務従事者」、年齢別では「30~39歳」が請求件数、支給決定件数ともに最も多い結果となっています。このように業務に起因して精神障害となり労災申請をする労働者は、増加の一途を辿っています。
では、精神障害となった場合に労災の支給決定を受けるには、どのような要件が必要なのでしょうか。この要件については、厚生労働省の「心理的負荷による精神障害の認定基準」(基発1226 第1号、平成23.12.26)で定められています。 基本的な考え方としては、①対象疾病を発病していること②対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないこととしています。 対象疾病の発病に至る原因の考え方は、環境由来の心理的負荷(ストレス)と、個体側の反応性、脆弱性との関係で精神的破綻が生じるかどうかが決まり、心理的負荷が非常に強ければ、個体側の脆弱性が小さくても精神的破綻が起こるし、逆に脆弱性が大きければ、心理的負荷が小さくても破綻が生ずるとする「ストレス-脆弱性理論」に依拠しているとしています。
このため、心理的負荷による精神障害の業務起因性を判断する要件としては、対象疾病の発病の有無、発病の時期及び疾患名について明確な医学的判断があることに加え、当該対象疾病の発病の前おおむね6か月の間に業務による強い心理的負荷が認められることを掲げています。
以上の判断基準・判断要因に照らして労働基準監督署は、各項目を細かく見ていき、労働者の精神障害の原因が、業務上による心理的負荷でしか考えられないと総合的に判断した場合は、仕事に起因しているとして労災認定します。
対象疾病の発病の有無、発病時期及び疾患名は、「ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン」に基づき、主治医の意見書や診療録等の関係資料、請求人や関係者からの聴取内容、その他の情報から得られた認定事実により、医学的に判断されます。特に発病時期については特定が難しい場合は、そのような場合にもできる限り時期の範囲を絞り込んだ医学意見を求め判断するとしています。 認定基準の「対象疾病の発病前おおむね6か月の間に、業務による強い心理的負荷が認められること」に関しては、対象疾病の発病前おおむね6か月の間に業務による出来事があり、当該出来事及びその後の状況による心理的負荷が、客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であると認められることをいいます。 このため、業務による心理的負荷の強度の判断に当たっては、精神障害発病前おおむね6か月の間に、対象疾病の発病に関与したと考えられる業務によるどのような出来事があり、また、その後の状況がどのようなものであったのかを具体的に把握し、それらによる心理的負荷の強度はどの程度であるかについて、「業務による心理的負荷評価表」を指標として「強」、「中」、「弱」の三段階に区分されます。
「仕事の量や権限など特定の人に負荷をかけていませんか?」「特定の人や部署に仕事が偏っていませんか?」管理監督者(上司)や産業医、衛生管理者などは、社内の配置転換や長時間労働の改善を継続的に行い、精神障害者の発生を未然に防ぐための計画性が必須となります。
〈社会保険労務士 PSR正会員 村松 鋭士〉