試用期間中の従業員に対する「試用延長」や「解雇」は可能か
<つまこい法律事務所・弁護士 佐久間 大輔>
新年度が始まり、新卒者が入社して試用中の企業も多いだろう。一般的に、就業規則で試用期間を3ヵ月と定めている企業が多いようだが、新規採用した従業員の職務能力や勤務態度を、この期間に判断することは容易なことではない。採用活動では、人を確保することを重視する傾向あるが、新卒採用者が多数の場合、採用段階での選別には限界があり、試用期間中に能力や態度を再度見極めることも重要だ。とはいえ、試用は新入社員の地位を不安定にする。そこで、新入社員に対して企業が「試用期間延長」と「解雇」ができる場合について解説する。
◆就業規則に定めがない試用期間の延長
就業規則で、試用期間は3ヵ月間と定められているものの、試用延長に関する規定がない場合、延長することはできるのだろうか。
就業規則とは労働契約の内容になるため、試用期間についても、就業規則に定められていれば労働契約の内容になっている。したがって、試用延長の明文規定がないのに、期間満了時に特定の従業員のみに対して試用延長することは「不利益な取扱い」となる。仮に本人の同意を得ていたとしても、就業規則に違反する合意は労働契約法上無効となる。また、現在試用中の従業員が日常業務を遂行する能力を有しており、勤務態度にも問題がないのであれば、就業規則に規定がないのに試用を延長することは「労働契約違反」となる。
そして、延長規定の有無にかかわらず、企業が試用中の従業員に本採用拒否の意思表示をしないまま、就業規則に定める試用期間(例えば3ヵ月)が経過すると、労働契約上は本採用が確定したことになる。企業が本採用したことにより、後述する「留保解約権」が消滅する。
それでは、就業規則において「3ヵ月を超えて試用を延長できる」との規定を、新たに設けることはできるだろうか。答えは「可能」である。しかし、あくまで例外であり、下記のような場合に限られる。
・採用時には予測できなかった事情により試用期間中に職務能力を判断できなかった場合
・本採用を拒否できる事由があるものの、これを猶予して拒否事由が消滅するかどうかを見極める場合
そこで、延長規定を設ける場合は、上の要件にあてはまるかを検討する必要がある。
さらに、個別の従業員に対する試用期間延長だけでなく、「そもそも試用期間を3ヵ月ではなく、6ヵ月以上に延ばす」と就業規則を改定することも考えられる。試用期間を6ヵ月に設定することは可能だが、長期間の試用は従業員の地位を不安定にする。そのため、延長できる長さは、「職務能力や勤務態度を評価するのに必要な、合理的な期間」に限られる。となると、就業規則において、例外的に個別に試用期間を延長するにしても、新たに就業規則を改定するにしても、6ヵ月を上限とすることが最長となるだろう。
ただし、就業規則を変更した場合、現在試用中の従業員に遡及して適用することはできないので、留意されたい。
◆試用期間中の「解雇」や「本採用拒否」が可能な場合
試用中の従業員が職場や業務に適応しない場合、試用期間中に解雇したり、期間満了時に企業側が本採用を拒否したりすることはできるだろうか。
試用期間中も「労働契約」は成立している。しかし、企業には「従業員の不適格性を理由とする解約権」が留保されている。これを「留保解約権」という。企業が留保解約権を有している点が、本採用後の解雇との違いとなる。試用期間内の労働契約終了に関しては、期間途中の解雇であっても、期間満了時の本採用拒否であっても、留保解約権の行使が有効かどうかは同じ基準で判断される。
「留保解約権の範囲は、本採用後の解雇よりも若干緩やかに認められる」というのが裁判例の傾向だが、それでも本質的には「解雇」なので、企業側が自由に留保解約権を行使できるわけではない。留保解約権が行使することができるのは、採用決定後における調査の結果や、試用期間中の勤務状態などにより、採用決定当初は知らない事実(もしくは、知ることが期待できない事実)を、採用後に知るに至った場合である。当該の従業員を使用後も引き続き雇用することが適当でないという判断が、留保解約権の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり、社会通念上も相当として是認されるならば、留保解約権は行使できる。単に不慣れであるとか、性格がわからないといった抽象的な理由で本採用を拒否しても、合理性や相当性は認められず、留保解約権の行使が無効となる可能性がある。
ただし、中途採用の方が、新卒採用よりも社会人としての経験があり、業務上のスキルや知識を得ている前提なので、留保解約権の範囲は広くなる。しかし、中途採用者が、企業から期待されたスキルや知識をまったく有しておらず、職場の人間関係を悪化させて指導・教育しても改善の余地がないということであれば、留保解約権を行使して、試用期間中の解雇や期間満了時の本採用拒否をすることができる。
試用期間中にこれらのような事情が認められるならば、必要な指導・教育をするとともに、改善されなければ本採用を拒否する可能性があることを、まずは文書で警告した方がよい。段階を踏まないと、裁判となった場合、裁判所は「従業員側に改善の余地がある」、「企業はなすべき対応を怠った」として、本採用拒否を無効と判断する可能性があるからである。
プロフィール
弁護士 佐久間 大輔
労災・過労死事件を中心に、労働事件、一般民事事件を扱う。近年は、メンタルヘルス対策やハラスメント防止対策などの予防にも注力しており、社会保険労務士会の支部や自主研究会で講演の依頼を受けている。日本労働法学会・日本産業ストレス学会所属。著作は、「過労死時代に求められる信頼構築型の企業経営と健康な働き方」(労働開発研究会、2014年)、「長時間労働対策の実務 いま取り組むべき働き方改革へのアプローチ」(共著、労務行政、2017年)など多数。