解雇が有効か無効かは別として、大前提として、就業規則に具体的な解雇事由の記載がなければなりません。労働契約を使用者側から解約するときの根拠です。その上で、労働者を解雇しようとする場合には法律上の制限があります。
先ず、「業務上の負傷・疾病による休業期間中」と「産前産後休業期間中」は解雇することは出来ません。これらの休業終了後30日間も制限されます。
この制限期間内でなければ、原則解雇は可能です。解雇について労働基準法第20条では、「使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前にその予告をしなければならない。
30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。」と定め、続く第2項で「予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができる。」とされています。つまり、解雇とはいえ1ヶ月分の所得補償を義務付けています。 30日前の予告を原則とし、30日前に予告をしない場合は30日分以上の平均賃金の支払を義務付け、短縮する日数分の平均賃金を支払うことによって予告日数を短縮することが可能であるという規定です。この平均賃金のことを解雇予告手当といいます。
この原則から外れるものが「即時解雇」です。即時解雇を行うには、労働基準監督署から「解雇予告除外認定(同条第19条第2項)」を受けなければなりません。この認定を受けずに行った解雇は法違反となり、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)の対象となります(同条第119条第1項)。尚、除外認定を受けると、予告の義務と予告手当の支払義務の両方が解除されます。
労働基準法第19条では、以下の2つの要件で解雇予告除外認定をする旨規定しています。
・天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となった場合
・労働者の責に帰すべき事由に基づいて解雇する場合
「天災事変その他やむを得ない事由」とは、地震や火災による事業所の全壊や全焼等、防ごうにも防ぎようがない状態であることを指し、「事業の継続が不可能」とは、災害等によって誰が見ても「継続は不可能だ」と判断できるような状態であって、業績不振等、単に不景気・赤字による理由では該当しません。「労働者の責に帰すべき事由」とは、窃盗・横領・傷害等、重大な服務規律違反や背信行為を行った場合が該当します。
しかし、認定はあくまでも労働基準監督署が労基法第20条の行使義務の不履行を認定したというだけであって、解雇が有効だと認定したのではありません。労働者が異議を唱えた場合には、争いになることも考えられます。
「懲戒解雇は、行政官庁の認定を受けた場合、即時解雇とする。」というような、解雇予告除外認定を受けることが即時解雇の要件のような記載をする就業規則もあるようです。この条文では、認定を受けることが出来なければ即時解雇できないことになり、使用者の思惑と異なっていると思われます。「懲戒解雇は即時解雇とする。行政官庁の認定を受けたときには解雇予告手当を支給しない。」という規定が望ましいでしょう。 いずれにせよ、就業規則の根拠条文、労働者の瑕疵等の証明が必要になります。
<社会保険労務士 PSR正会員 山下事務所>