協約は組合員だけに適用されると考えて良いのでしょうか?
組合員以外の社員とのバランスが気がかりです。
労働組合の結成は、憲法第28条で保障されています。労働組合と認められるためには、労働組合法第2条に適合すること、同条第5条規定によって資格を与えられることが主な要件です。組合活動(団体交渉等)については、その活動を排除するような行為は禁止され(不当労働行為等)企業には誠実交渉義務が課せられます。
労働協約は、労働組合と使用者側との間の労働条件に関する協定です。協定内容を書面にし、双方が記名押印することによって効力が発生します(同法第14条)。使用者側としては、組合員としか約束していないわけですから、非組合とは無関係のはずです。しかし、同法第17条では例外規定を設けています。
「一の工場事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする。」
つまり、組合員数が全体の4分の3以上である場合は、無関係な非組合員に対しても効力が及ぶ、ということです。これを拡張適用といいます。ただ、判例では以下のような指摘もあります。
「非組合員へ適用することが、著しく不合理であると認められる特段の事情の有無を検討し、そのような事情があれば適用しない。」(平成8.3.26 最高裁判決 朝日火災海上保険事件)
この判例は、「労働協約の内容が非組合員の労働条件よりも下回っており、拡張適用されると不利益となる。」という状態で、「原則として拡張適用はあるものの、著しく不利益であれば適用することは出来ない。」という考えです。
非組合員が、どこの組合にも所属しない労働者であって、当該労働者の労働条件よりも著しく不利益であれば適用されないと考えられます。
また、非組合員といっても他の組合に所属している場合や、いくつもの少数組合がある場合はどうでしょう。
協定当事者の組合が全体の4分の3未満の組織であれば、他の組合には効力は及びません。労働組合は個々で独立した組織であり、個々の組合に団結権が保障されているからです。このことから、少数組合が独自に交渉を行う権利は保障されなければならず、適用はしないという説が有力です。
労働組合は「敵対」「対決」のイメージが強いのですが、会社からのお知らせ(通達等)が、的確にかつ必ず全社員に知らされる等、良い面もあります。つまり、社員が知らない状態は、余程のことがない限り原則としてあり得ません。このように、会社にとってもプラスとなることもあります。使用者と労働者は「敵対」「対決」ではなく、「信頼関係」を保つことが肝要です。<社会保険労務士 PSR正会員 笹生裕康>