ハラスメント防止の鍵は思いやり
<オフィス クロノス 久保 照子/PSR会員>
総務省「労働力調査年報」2016年をもとに、2017年の将来推計人口から将来の労働力人口を算出すると、2065年には労働力人口が約4割減少する見通しだ。
労働市場が変化していく中で、女性の活躍、病気や介護者を抱えていても働ける就業環境を整え、労働力率を上げる必要がある。多様な人々が多様な働き方で幸せに生きていける社会を目指す中、最近のセクハラ事件。多様性も生産性も、仕事にも人生にも良いことはないハラスメントについて、その防止対策は重大なテーマである。
◆パワハラの実態
ハラスメントは一般にいやがらせと訳されるが、EUやEU加盟諸国では暴力に近い趣旨でとらえられている。 日本ではセクシャル・ハラスメント(以下 セクハラ)、パワーハラスメント(以下 パワハラ)、アカデミック・ハラスメントなどが一般化している。
パワハラは㈱クオレ・シーキューブが造った和製英語で、欧州ではモラル・ハラスメントなどと呼ばれている。
セクハラは個人間のトラブルではなく、雇用管理上の問題として企業が対応しなければいけない問題であると法的に位置づけられている。パワハラも、加害者だけでなく、企業責任が問われる判例も増えている。企業責任としてのハラスメント防止は従業員の行動や態度にかかっている。
厚生労働省の“平成28年度 職場のパワーハラスメントに関する実態調査”(平成28年7月から10月にかけて実施した、企業と従業員調査からなるアンケート調査)によると、従業員向け窓口への相談で最も多いテーマはパワハラ(32.4%)である。
予防・解決の取組みは52.5%。 企業規模が小さくなると実施比率は低くなる。ハラスメントの従業員向け窓口設置企業は73.4%を占める。
企業の取組姿勢や行動は従業員の感受性や心身によい影響を与える傾向があること、相談窓口の設置や研修は効果があり、付随して職場環境が変わり、コミュニケーションがよくなり、求職者・離職者、メンタル不調者が減少する効果も見られたとしている。
その取組、ハラスメントの行為に該当するか否かで考えがちだが、大切なことは相手を思いやる職場風土にあるのではないか。
セクハラ、パワハラ共通の特徴は、職務上の上下関係、力関係を背景にしていることだ。支配的な立場になり、権力を持つことで関係性が歪められ、思いやりは去っていく。
◆思いやりは訓練可能
“自分の終生の目標は内面の平穏と思いやりを広げ、それによって世界に平和をもたらす、と真剣に語っているチャディー・メン・タンにヒントを聴いてみよう。
彼は、グーグルのエンジニアでSIY開発の中心人物である。SIYは“Search Inside Yourself (己の内を探れ)”の略で、マインドフルネスに基づくEQ(情動的知能)育成プログラムを言う。
マインドフルネスとは、心を整える手法。“余計な評価判断を手放して、あるがままの いま、に注意を向けている状態であり、いま、にしっかりと気づいている状態”をいう。そのマインドフルネスを鍛錬するワークが瞑想法。都会にいながら、禅寺に籠って修行をするのと同じ効果を7週間、合計20時間、教室で体得する。2016年に出版された彼の著書“サーチ・インサイド・ユアセルフ 仕事と人生を飛躍させるグーグルのマインドフルネス実践法”はそのカリキュラムでもある。グーグルからのプレゼント、というわけだ。
このプログラムはグーグルですでに2007年から教えられているもので、高い評価を得ており、日本も含め世界に広がっている。
瞑想というと謎めいているが、こころのトレーニングである。私達は座禅やヨガを怪しいとは思わない。
誠実、思いやり、優しさなどという内面を磨く技術、訓練を科学的に再現可能にしたものだ。
では、瞑想がどうやって思いやりに結びつくのか。その一歩は共感を育むことにある。
コミュニケーションスキルの一つに傾聴がある。質の高い傾聴は相手が感じたと同じような感情や感覚を共感することで相手と信頼を結び、相手が自身で内面の深い感情にたどり着くことを可能にする。しかし、まるで相手と同じように感じる、といわれても最初はわからない。分かるには自身がコンサルティングを受けるのが一番といわれている。
この点についてメンは“共感と、脳のタンゴ”の章で、共感を育む望ましい心の習慣を生み出す練習、 初歩的なものから、高度なものを紹介している。例えば、“「私とまったく同じ」と「愛情に満ちた優しさ」の瞑想エクササイズは相手になったような感じにタッチできる。わかりやすいトレーニングに驚く。
思いやりとは、他者の苦しみに対する気遣いの感覚と、その苦しみが取り除かれるようにしたいという強い願望とを伴う心の状態である、と著書ではジンパの定義を引用している。
自社に相応しいものを選び、心の運動習慣を広め、思いやりという自己から他者への移行のある職場づくりを考えてみませんか?