<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員>
ハラスメント防止を通じて誰もが働きやすい職場環境をつくることは、会社の生産性向上につながります。しかし実際は、うまくいくことばかりではありません。特に、中間管理職の方は、さまざまな葛藤を抱え、その問題と向き合わなければなりません。今回は、中間管理職の方が抱える「板挟み」にスポットを当て、ハラスメントに関する悩みを解消するポイントを解説します。
~中間管理職が抱える板挟み①~「ルール」とハラスメントの板挟み
「ハラスメントをしてはいけない」「ハラスメントにより懲戒処分を受けてはならない」など、職場のルールを遵守する意識が強いと、成果を上げてない部下に対し「どのように指導したらよいか」という‘’板挟み“を感じる場面もあるのではないでしょうか。
【解消のポイント】ハラスメント加害者となることを必要以上に警戒しない!部下が働きやすい職場環境づくりに徹する!
まず、「ハラスメントをしてはいけない」を目的にしないことです。
これが目的になってしまうと、ハラスメントか否かということばかりに意識が集中し、部下に対して実のある指導ができなくなるからです。上司が毅然とした態度で行う指導は必要なことです。
そして、必要な指導をした上で、大事なことは「部下の仕事ぶりに変化があったのか」「変化がなければ、どのようなアプローチをしたらよいのか」などを考察し、その能力を最大限に発揮するため、部下が働きやすい職場環境を追求し続けることです。
「部下の仕事ぶりが改善されない⇔指導をどんどん強めていく」というような悪循環に陥らないように留意すれば、何がハラスメントであるかということは一般的な理解に留めておけば十分であり、ハラスメント加害者となることを必要以上に警戒しないことです。
~中間管理職が抱える板挟み②~「会社」とハラスメントとの板挟み
私的な人間関係によるものなどを除けば、ハラスメントの多くは会社内における役職・役割が原因で起きてしまいます。強い使命感を持つ中間管理職ほど、「こんなに強い指導はしたくない」「でも・・会社のために」という‘’板挟み“を感じるのではないでしょうか。
【解消のポイント】ひとりで悩みを抱え込まない!早い段階で、会社と悩みを共有すること!
もしハラスメントが発生し、被害者が「会社がハラスメントと認めてもらえない」、行為者が「会社の懲戒処分に納得できない」など社内で解決ができなかった場合、ADR(裁判外紛争解決手続)などにより社外で解決を図ることも考えられます。
その際、民法などに規定される以下のような責任を会社が負うかが主な争点となります。
職場でハラスメントなどのトラブルが起きれば、会社は、中間管理職を含めた従業員の行動について使用者としての責任(使用者責任)が問われます。また、行為者にとって懲戒処分が行き過ぎたものであれば、会社は就業規則の運用(不法行為)が問われるかもしれませんし、会社はハラスメントが起こらないための労務管理ができていたか(安全配慮義務)を問われることもあります。
つまり、会社は、就業規則に懲戒処分などを定め、従業員に対し「ハラスメントをしてはならない」と周知するなどの措置を講じることが最終目的ではなく、そもそもすべての従業員が働きやすい環境をつくることに義務があるのです。その義務を遂行できなければ、会社はさまざまな責任を問われることになります。
そのように捉えると、中間管理職が会社のためにハラスメントのリスクを負う必要はありません。
一人ひとりの部下が働きやすい職場環境づくりを担うことは中間管理職の大事な役割ですが、中間管理職も1人の従業員です。会社が、すべての従業員が働きやすい職場環境をつくる義務を果たさないのであれば、中間管理職も“ハラスメントの被害者”といえるでしょう。
また、中間管理職がひとりで悩みを抱え込んでしまうと、会社がその現況を把握できず、前記のような法律上の責任を負うことにもなりかねません。中間管理者が早い段階で、その悩みを会社と共有できるよう報告・相談することが、会社にとっても大きなリスクを軽減することになるのです。
~中間管理職が抱える板挟み③~「部下」とハラスメントとの板挟み
「部下へ強い指導が必要」と思う場面でも、部下が中間管理職などに対抗する手段として「ハラスメントを受けた」と訴えてくるのではないかという‘’板挟み“も考えられます。
【解消のポイント】部下を頼りにすること!早い段階で「部下が嫌と思うこと」を察知する!
ひとつの言動によりハラスメントに該当することもありますが、ハラスメントの多くは、部下にとって不快と感じる「さまざまな事実の積み重ね」により起こります。そのため事実が積み重なる前に、問題を解決することが重要です。
しかし、中間管理職が主従関係の意識を強く持ちすぎると、部下を頼りにすることに抵抗感を覚え、指導することばかりに意識が傾きます。その結果、部下とのコミュニケーションが一方的となり、部下は我慢を強いられ、部下にとって不快と感じる事実ばかりが積み重なっていきます。
ぜひ、仕事における大切な場面であれば、部下を頼りにする場面をつくりましょう。例えば、部下から意見を聴くことです。
実際に、頼りない部下もいるかもしれませんが、その意見を100%取り入れる必要はありません。「この部分を取り入れよう」「こういう見方があることに気づいた」などと伝えることがポイントです。仮に、部下が上司に対して不満を持っていたとしても、自らの存在価値が認められることは部下にとっては喜びとなるはずです。この「喜びの事実」をつくることが大切です。
さらに部下は上司に対し、嫌なことがあっても「嫌!」とは言いにくいものです。
部下を頼りにする場面をつくり、時には上司として“隙を見せる”ことも1つの方法です。部下の本音を引き出し、その考え方・価値観などを知ることで「部下が嫌と思うこと」を察知することにつながります。
「部下が嫌と思うこと」が分かれば、中間管理職として大事な役割である、一人ひとりの部下が働きやすい職場環境をつくるための大きな手掛かりにもなるのです。
プロフィール
ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com)
社会福祉士・社会保険労務士 後藤和之
昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。
約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。
特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。