【専門家の知恵】措置義務だけではない。ハラスメント防止の大切な手掛かり。 厚労省指針「事業主が行うことが望ましい取組」の概要とポイントを解説

公開日:2023年2月4日

<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員>  

 厚生労働省指針において、ハラスメント防止を目的に事業主が行うことを義務とする「雇用管理上講ずべき措置」が定められていますが、その他にも「行うことが望ましい取組(以下、望ましい取組)」というものも定められています。「望ましい取組」は、効率的にハラスメントの防止策を推進する上で大切な内容です。今回は、指針に示されている3つの「望ましい取組」の概要とポイントをご紹介します。   

 

~望ましい取組①~各種ハラスメントの一元的な相談体制の整備 

●概要

 ハラスメントの内容に応じて、事業主の雇用管理上の措置を定めた法律は異なります。
 ・職場におけるパワーハラスメント(パワハラ)「労働施策総合推進法」
 ・セクシュアルハラスメント(セクハラ)、妊娠または出産に関するハラスメント(マタハラ)「男女雇用機会均等法」
 ・育児休業などの制度利用に関するハラスメント(マタハラ・パタハラ)「育児・介護休業法」

 それぞれのハラスメントについて、雇用管理上の措置が義務化された時期が異なることもあり、相談窓口が一元化されていない場合もあります。指針では、ハラスメントが複合的に生じることも想定されていることから、一元的に応じることができるよう整備することが望ましいとされています。

 

~ポイント!~ ハラスメントに関連する“法改正”とセットで相談体制整備!

 中小企業におけるパワハラの雇用管理上措置の義務化は2022年4月からで、セクハラ・マタハラなどは先行して義務化されています。そのため社会的にも「パワハラ」に焦点が当たりがちですが、2022年~2023年には他にも次のような法改正があります。

【女性活躍推進法】
・一般事業主行動計画の策定や情報公表の義務化が、301人以上の事業主から101人以上の事業主に拡大(2022年4月より)

【育児・介護休業法】
・雇用環境整備や個別の周知及び意向確認の措置の義務化(2022年4月より)
・有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和(2022年4月より)
・産後パパ育休(出生時育児休業)の創設及び育児休業の分割取得(2022年10月より)
・従業員1,000人超企業の育児休業取得状況の公表の義務化(2023年4月より)

 これら法改正の遵守は「女性の活躍を推進し、人材の多様性を確保することで、セクハラ防止につながる職場風土の醸成」「育児休業等の周知をすることで、男性が育児休業を取得しやすい環境が生まれ、パタハラ防止につながる」などさまざまなハラスメントを防止する上で大きな効果が期待できます。
 各種ハラスメントや法改正一つひとつの内容を個別に捉えるのではなく、各種ハラスメントの一元的な相談体制を目指すことで、現状の対応を見直し、法改正内容を包括的に捉えることで、効率的にハラスメント防止を推進することにつながります。 

 

~望ましい取組②~職場におけるハラスメントの原因や背景となる要因を解消するための取組 

●概要

 パワハラ及びマタハラ・パタハラに関する内容です。指針では、パワハラ防止に関する取組として、コミュニケーション活性化を図るための「定期的な面談」「ミーティング」、さらに「感情をコントロールする手法についての研修」「コミュニケーションスキルアップについての研修」の実施、「過剰な長時間労働の是正」等が挙げられています。
 マタハラ・パタハラ防止に関する取組として「制度等の周知」「妊娠した労働者が、自らの体調等に応じて適切に業務遂行する意識を持つことの啓発」等が挙げられています。

 

~ポイント!~ 新たな取組は‘’戦略的‘’に!

 積極的に行動へ移し、面談・研修などのさまざまな取組ができればそれに越したことはありません。しかし、それを実現するには、企画する担当者の労力・従業員が参加するための時間などが必要とされます。そして、今後もハラスメントに限らず、事業主はさまざまな雇用管理上の措置が求められることも予想されます。取組に必要な負担、それに対する効果などを想定し、会社の実情に応じた取組を考えていきましょう。
 また、面談・研修などの新たな取組を導入する際、その事実だけで満足しないことです。大事なことは‘’新たな取組を導入した「その後」“です。

 例えば『感情をコントロールする手法についての研修』を開催したのであれば、
・研修開催後、従業員アンケートなどにより、職場環境が向上したのかを検証する
・感情に関わる人事評価項目を改正する機会とする
・研修を通じて効果が表れた従業員へインタビューを行い、それを社内報で周知する などです。

 同時にさまざまな取組を行うより、一つの取組に絞って戦略的に次の取組へつなげることも、効率的なハラスメント防止を推進するポイントです。

 

 ~望ましい取組③~労働者や労働組合等の参画 

●概要

 指針では、雇用管理上の措置を講じる際に、必要に応じて、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることとされています。参画を得る方法の一つとして、労働安全衛生法に基づく衛生委員会の活用を挙げています。

 

~ポイント!~ 望ましい取組は‘’既存の取組を見直すこと“を大切に!

 前記のとおり、新たな取組については、過度の負担がかからないよう必要なものに絞りましょう。そして、より大切にすべきことは、“既存の取組を見直すこと“です。

 例えば
・衛生委員会が、労働者側の意見を反映する場となっているか
・ハラスメント相談窓口が、形骸化していないか
・人事労務に関する取組が、毎年同じことを繰り返すだけになっていないか などです。

 見直すことにより、既存の取組の課題を抽出し、労働者の参画を通じて解決を目指すことが、ハラスメント防止につながる何よりの方法です。

 ぜひ「雇用管理上講ずべき措置」だけでなく、「望ましい取組」も効率的にハラスメント防止策を推進するための大切な手掛かりとして強く意識しましょう。

 

▼参考
・職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました︕~ ~ セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対応をお願いします ~ ~
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000611025.pdf
・育児・介護休業法 改正ポイントのご案内
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000789715.pdf
・令和4年4月1日から女性活躍推進法に基づく行動計画の策定・届出、情報公表が101人以上300人以下の中小企業にも義務化されます
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000862422.pdf 

 

プロフィール

ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com) 
社会福祉士・特定社会保険労務士 後藤和之

昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。
約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。
特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。

 

 

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