仕事の「主人公」になろう!
<株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 大曲 義典/PSR会員>
従業員に焦点を当て、彼らが高いエンゲージメントを抱きながら働くようにすることは、本人はもとより、会社にとってもプライオリティの高い人事施策である。人間一人ひとりの成長に最も資する「場」は「仕事」だと述べている一人に作家の林真理子氏がいるが、筆者も全くもって同感であり、実体験からしてもそのとおりである。
人間の性(さが)として、他人から指図を受けたり、命令されたりしながら事を進めることは、苦痛以外の何物でもない。例え、それが社長直々のものであってもだ。筆者は、従前から「自ら考え、自ら取り組む」姿勢が、人生のいかなる場面でも「やる気」を高めると確信し、実践してきたつもりだ。最近になって、メディア等で取り上げられることも多くなった「ジョブ・クラフティング」理論と同旨である。これは、文字どおり「ジョブ=仕事」を「クラフト=作り上げる」という意味であるが、仕事への向き合い方や行動を主体的にすることで仕事を「自分のもの」と捉え、そのやりがいを高めていくという考え方である。平たく言えば、管理・マニュアル・呪縛などで失った仕事のやりがいを自分の手に取り戻し、作り直そうとするものである。
この理論の提唱者は、アメリカのイェール大学経営大学院のエイミー・レズネスキー教授とミシガン大学のジェーン・E・ダットン名誉教授であるが、彼らによると「ジョブ・クラフティング」は、次の3つの次元での仕事の見直しや修正を通して行うことができるとされている。
① 仕事の意義のクラフティング
② 仕事プロセスのクラフティング
③ 仕事上の人間関係のクラフティング
1つ目の、「仕事の意義のクラフティング」とは、自分の仕事の捉え方を再定義しようということである。あてがわれた仕事を金銭的報酬を得るためだけの退屈な作業と捉えるのではなく、自分のライフステージで重要な位置を占めた価値あるものと捉え、仕事に積極的な意義を見い出そうということである。たとえば、人事の仕事でも「退屈なルーティン作業で日の目を見ない仕事だな」と思ってやっている仕事を「会社のコア資源たる人材を自分の力で必要不可欠な資産に作り変えてやろう」と転換すれば、まるで意欲や成果が違ってくるはずである。
2つ目の、「仕事のプロセスのクラフティング」とは、仕事の方法や内容の改善をしようということである。いつも同じ仕事を同じ目線でやっているのでは辟易してしまい、成長する意欲も消失してしまう。仕事へのアプローチを変えてみたり、新しい技術や手法を使ってみたりすることで、経験したことのない結果が生まれ、それをやりがいへと昇華させていくことができるということである。
3つ目の、「仕事上の人間関係のクラフティング」であるが、これが最も重要な要素かもしれない。他人と関わらずに仕事を進めることはできないからである。この要諦は、まず自らのスキルアップを主体的に図り、それを他人に認めてもらうことである。そうすると、自分を頼りにしてくれる人や認めてくれる人が増え、と同時に自身の内面に利他的な感情が沸き上がってくる。これらを前提として、これまでになかった人間関係づくりを進めたり、コミュニケーション、特に対話(ダイアローグ)を増やしていければ、人間関係のクラフティングが出来上がっていく。
ただ、人との関わり方で注意しておきたいこともある。最近は、他人から意見されることを嫌がる人が多いように見受けられる。場合によっては、それをハラスメントと勘違いしていることもあるようだ。そうすると、そこでは創造的対話が欠落することにもなる。チームにミッションがあり、常日頃からコミュニケーションがとれ、目標に邁進している組織内では、仕事上の「喧嘩」は日常茶飯事である。そうでないと、良い仕事は生まれない。逆に言えば、それだけ仕事は厳しいものであり、簡単なものではない。
自分の損得を超えて、他人に意見する人の心持ちを考えてみよう。普通、人間は自分がかわいいから、他人に嫌われるような言動はとらない。余計な波風を立てて得することなどないからである。それを厭わずに敢えて意見してくれる人はとてつもなく貴重な存在である。意見される側は、それをしっかり受け止める度量を持つべきなのである。そうしないと、折角の自己成長の機会を自ら捨て去るようなものである。齢を重ねれば、他人から意見される機会は減少してくる。若くして天狗になってしまわないよう、そして主体的に生きていくために、この「ジョブ・クラフティング」の考え方を活かしていただきたい。
ピーター.F.ドラッカーが「知識社会では仕事そのものが報酬だ」と論じている。仕事そのものが報酬たり得るよう、「仕事の主人公は自分」であることを忘れないようにしたい。
プロフィール