【専門家の知恵】「雑談」は軽視できないコミュニケーション

公開日:2022年5月27日

<株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ  大曲義典/PSR会員>

 

 人間関係を司る最も大事なものは「コミュニケーション」であろう。双方向のコミュニケーションが不足すると、人間関係そのものが成り立たないし、まして発展することなどあり得ない。人は、ほぼ毎日コミュニケーションをとる。家族の団らん、知友人とのメールやラインの交換はもとより、職場では上司、同僚、部下と話しをし、会議に集まり、取引先とも連絡をとる。まさに、コミュニケーションの連続である。

 

コミュニケーションの種類

 普段意識することはないが、人はコミュニケーションをとるにあたって、「バーバル・コミュニケーション」と「ノンバーバル・コミュニケーション」を駆使している。「バーバル・コミュニケーション」とは、文字どおり言葉を手段としたコミュニケーションである。言葉は、人類を進化させてきた強力な武器である。一人ひとりは無力ながら、言葉を通じて集団化することで大きな力を持ち、生き残り、繁栄を支えてきた。そして、この言葉の持つ細やかで正確な意思伝達手段は、文字をも生み出し、人類にヘゲモニーを与えてきた。

 他方、人間以外の動物のコミュニケーション手段は、表情や動作などによる非言語的な「ノンバーバル・コミュニケーション」だけである。基本的には、言葉を持たないからである。それでは、人間は「ノンバーバル・コミュニケーション」を使っていないかといえば、そんなことはない。他の動物以上に「ノンバーバル・コミュニケーション」を多用している。人は何気なくコミュニケーション=言葉、だと思い込んでいるから、それを意識していないだけである。

 

ノンバーバル・コミュニケーションの威力

 ノンバーバル・コミュニケーション」は軽視できない。ときには、「バーバル・コミュニケーション」以上の伝達力を持っていることが証明されている。アメリカUCLAの心理学者アルバート・メラビアン博士は、話し手が聞き手に与える印象がどのような要素で形成されるかを実験的に検討し、その結果、話し手の印象を決めるのは、「言葉以外の非言語的な要素で93%の印象が決まってしまう」ということを解明している。有名な「メラビアンの法則」である。それによると、見た目・身だしなみ・しぐさ・表情・視線といった「視覚情報」で55%、声の質(高低)・速さ・大きさ・テンポといった「聴覚情報」で38%、話す言語そのものの「言語情報」で7%であったそうだ。この割合を冠して「7-38-55ルール」とも呼ばれている。ただし、この法則は話し手と聞き手との間で、好意・反感などの態度や感情のコミュニケーションを前提としたものであるから、全てのコミュニケーションに当てはまるものではないことに注意しなければならない。とはいえ、ノンバーバル・コミュニケーションの重要性はいささかも揺るがない。特に、職場の人間関係はこれによって規定されるといっても過言ではないから、最大限の意識を振り向けるべきである。

 

職場で意識したい「権威」というノンバーバル

 職場で交わされる非言語的なるものの中でも、通常は意識することの少ない「権威」には注意した方がよい。権威とは肩書や組織でのポジションのことであるが、この権威の前では人は無力化されてしまう。権威を持っている人の行動は、それだけで強力なノンバーバル・コミュニケーションとなってしまうのである。上司から部下へのハラスメントが頻発しているが、これは上司が「権威」に無意識であることを物語っている。マネジメントする立場の人は、このような「権威」をかざす可能性が高いことをを十分に意識しておかねばならない。

 

「雑談」を見直そう

 また、最近では職場のコミュニケーションに関連して、一見して無駄だと思われる類のコミュニケーションが減少しているように感じる。リストラによって、最小限の要員で業務を行わざるを得ないという環境であるとか、効率性を重視し無駄を排除する慣行などが要因かもしれない。確かに、無駄の排除はルーチンワークに関しては正鵠を得ているが、クリエイティブな業務環境にはマイナスの効果が働く可能性が高い。どのような職場でも、コミュニケーションが不可欠であることは論を待たないが、特に後者の職場ではコミュニケーションの内容よりもコミュニケーションしていること自体に意義がある。無駄と思われるコミュニケーション、いわば「雑談」であるが、これには意外な効果がある。人間は、常に相互の存在を確かめあったり、コミュニケーションする意思を発現しておかないと、相互不信に陥ったり、不安感に苛まれたりする厄介な生き物である。そのような環境づくりに「雑談」は最適なのである。また、人間関係の潤滑油にとどまらず、雑談の中から新しい発想が生まれたりする。職場の中に、この雑談を軽蔑・軽視する雰囲気はないだろうか?雑談だけが得意で業績はさっぱりというのも困ったものだが、改めて多くの職場で雑談が復活することを願うものである。

 

プロフィール

大曲義典
社会保険労務士・CFP® 
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ(http://www.wbc-associate.co.jp/)

 関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務  の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など

 

 

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