厚生労働省の「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、令和5年度に総合労働相談コーナーに寄せられた相談内容で「解雇」は32,944件(10.5%)ありました。毎年上位にランクインしています。
その要因には、労使ともに解雇に対する理解不足や誤解も多分にあると思われます。
そこで、今回と次回の2回にわたり、解雇についての基本的な理解をはじめ、実際に解雇するにあたっての注意点などを解説していきます。
解雇とは何か
解雇とは、会社からの一方的な労働契約の終了のことをいいます。解雇と混同しやすいのが、退職勧奨です。
退職勧奨は、会社が労働者に対して、「辞めてはどうか」と退職することを働きかけるものの、最終的な退職の意思決定は労働者側にあります。
このように、労働関係を一方的かつ強制的に終了させるのが解雇です。労働者にとって生活に大きな影響があることから、解雇については、様々な法的な規制やルールが設けられています。
解雇は自由にできない
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は無効となります(労働契約法16条)。つまり、解雇は常識的に納得のいく理由がないとできません。
労働契約は、労働者が労務の提供を行い、使用者(会社)がその対価の支払いを約束する契約です。
そのため、労務の提供が満足に行えなくなるのは、労働者の債務不履行(約束違反)となります。
民法の契約の原則からすると、債務不履行による契約の解除は認められるところですが、労働者保護の要請から、特別に労働契約法で解雇にはハードルが設けられているのです。
そもそも解雇が禁止されている場面もある
上記に加えて、そもそも解雇が禁止されている場面があります。次のいずれかに該当する場合には、解雇ができません。
ただし、①②に該当する場面で合っても、天災事変などやむを得ない事由により事業の継続ができなくなった場合には、行政官庁の認定を受けることで解雇が可能です(労働基準法19条1項)。
① 労働者が業務上負傷、または病気になった場合に、その療養のために休業する期間及びその後30日間。ただし、療養開始後3年を経過しても負傷または疾病が治らず、かつ会社が平均賃金の1,200日分の打切補償を支払った場合には解雇が可能。
② 産前産後の女性が産休で休業する期間及びその後30日間
この他にも、労働者が育児・介護休業などを申し出たこと、又は育児・介護休業などをしたことを理由とする解雇(育児介護休業法)、労働組合の組合員であることなどを理由とする解雇(労働組合法)などが禁止されています。
解雇には予告が必要
解雇に理由があるとしても、解雇する際には、少なくとも30日前までに予告しなければなりません(労働基準法20条1項前段)。これを解雇予告といいます。
解雇は会社からの一方的な契約解消なので、いきなり解雇すると労働者の生活に大きな影響を与えるからです。
例えば、「10月31日」に解雇する場合、30日前にあたるのは「10月2日」になりますので、少なくとも10月1日までに解雇予告が必要となります。
「今日でクビ!」の場合はお金で解決する
お金で解決する、というのは少々下品ですが、30日も待っていられない場合、30日分以上の平均賃金(これを解雇予告手当といいます)を支払って解雇することも認められています。
給料の約1か月分以上を支払うことで解雇予告に代えることができるというわけです(労働基準法20条1項後段)。
また、解雇予告期間が30日に満たない場合、予告期間と予告手当を合わせて30日以上にすれば解雇が認められます(労働基準法20条2項)。
解雇の種類
解雇には、普通解雇、整理解雇、懲戒解雇があります。
(1) 普通解雇
普通解雇を行うためには、前述のとおり、「客観的に合理的な理由」が必要です。客観的に合理的な理由としては、「業務を行う能力不足」、「病気などによる勤務不能」、「協調性の欠如」などが挙げられます。
また、客観的に合理的な理由があったとしても、「社会通念上相当」と認められる必要があります。これは、労働者の情状(反省の程度など)、会社の対応や落ち度の程度、他の労働者に対する処分との比較などによって判断します。
例えば、同じ状況にある労働者に対して、一方は解雇、他方はお咎めなし、ということでは、社会通念上相当とは認められない可能性が高いでしょう。
(2) 整理解雇
整理解雇は、経営上の理由から会社が人員整理を行うための解雇です。普通解雇の一種ですが、会社側に帰責性がある点が特徴です。そのため、通常の普通解雇の場合と比べて解雇のハードルは高くなります。
具体的には、次の4つの観点から整理解雇の有効性が判断されます(参考:厚労省HP「労働契約終了に関するルール」)。
①人員削減の必要性
人員削減措置の実施が不況、経営不振などによる企業経営上の十分な必要性に基づいていること
②解雇回避の努力
配置転換、希望退職者の募集など他の手段によって解雇回避のために努力したこと
③人選の合理性
整理解雇の対象者を決める基準が客観的、合理的で、その運用も公正であること
④解雇手続の妥当性
労働組合または労働者に対して、解雇の必要性とその時期、規模・方法について納得を得るために説明を行うこと
(3)懲戒解雇
懲戒解雇は、懲戒処分としての解雇のことです。普通解雇との違いは、会社の秩序維持、制裁的意味合いがあること、そのため退職金の支給が一部あるいは全部不支給となることが多いこと、が挙げられます。
また、普通解雇は、就業規則に解雇事由の記載がなくても解雇を行うことはできますが(ただし争いとなった場合に解雇の有効性は会社にとって不利になる可能性が高い)、より労働者にとって厳しい処分である懲戒解雇を行うためには、就業規則に懲戒解雇事由が記載されていることが必要です(フジ興産事件判決)。
プロフィール
三谷社会保険労務士事務所 所長
大学卒業後、旅館や書店等で接客や営業の仕事に従事。前職の製造業では、総務担当者として化学工場での労務管理を担う。2013年に社労士事務所開業。労務に留まらない経営者の話し相手になることを重視したコンサルティングと、自身の総務経験を活かしたアドバイスで顧客総務スタッフからの信頼も厚い。就業規則の作成、人事評価制度の構築が得意。商工会議所、自治体、PTA等にて研修や講演多数。大学の非常勤講師としても労働法の講義を担当する。趣味は、喫茶店でコーヒーを飲みながらミステリ小説を読むこと。