【専門家コラム】安易な雇止めはトラブルの元に!?リスクを回避する方法とは

公開日:2024年8月23日

 

安易な雇止めはトラブルの元に!?リスクを回避する方法とは


<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員>

 

厚生労働省の「令和5年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、民事上の個別労働紛争の相談件数26.6万件のうち、雇止めに関する相談が約1万5千件あり、紛争調整委員会による「あっせん」に発展する案件も発生しています。

それだけ、雇止めに関するトラブルが表面化していると言えるでしょう。

しかし、雇い止めと言っても、労働契約の期間が満了し、契約を更新しない選択をしたわけですから労使のトラブルになるのか?という疑問がありそうですが、場合によっては、雇止めが解雇と同じ扱いとなり、雇止めが違法と判断されることもあります。

では、雇止めによる労使のトラブルをどのように防いでいけばいいのでしょうか?

 

雇止めが「解雇」と判断される?

労働契約法第19条では、労働者が有期の労働契約の更新を希望しているにも関わらず、会社側が拒否したときに、場合によっては、それまでの労働契約の内容である労働条件と同じ労働条件で労働者の申込みを承諾したものとみなす、と規定しています。

この「場合によっては」というのは、

① 過去に何度か有期労働契約が更新されていて、雇止めが「無期労働契約の解雇」と社会通念上「同視」できると認められるもの
② 有期労働契約の期間が満了するときに、「労働契約が更新されるだろう」と労働者が期待する合理的な理由があると認められるもの

ということです。

一つ目の「無期労働契約の解雇と同視」というのは、たとえば、労働契約の更新の際に雇用契約書や労働条件通知書を労働者に渡したことがないような、事実上、無期雇用の労働者と同じような扱いになっていた状況が考えられます。

つまり、表面上、有期労働契約ではあるものの、「更新」の認識が薄れてしまい、労働者側から見た場合、いきなり会社側から「次の契約は更新しない」と言われた場合に納得されないケースです。

二つ目の「労働者が労働契約が更新されると期待する」ということについては、たとえ一つ目の条件をクリアしていたとしても、たとえば上司から「次の契約更新もよろしくね」などと、あたかも労働契約が更新されるものだと労働者が期待をする言動のことを指します。

有期の労働契約ですから、原則から考えると労働契約の期間が満了になれば、その労働契約は終了するのが当然です。

なので、労働者にしてみれば、生活のために労働契約が終了した後の仕事を探そうとするでしょう。

しかし、上司から「次の契約更新もよろしくね」と言われれば、次の仕事の心配がなくなるわけで、そのような状況で会社から契約更新をしないと言われればトラブルに発展する可能性が高くなるわけです。

この労働契約法は、労働基準法とは違い、労働基準監督署などの行政機関が法違反を判断する法律ではありませんが、労働局の個別労働紛争解決制度や司法による労働審判や民事訴訟に発展すれば、会社側にとっても負担となります。

したがって、労使のトラブルを事前に防止するための対策が必要になるのです。

では、どのように対策を取ればいいのでしょうか。

 

「雇止め」によるトラブルを防ぐ方法とは

会社がどれだけ「次の契約の更新はないよ」と労働者に宣言したとしても、それまでの労働契約の更新が適当に行われていたり、過去の会社側の言動によって労働者が次の契約の更新を期待させてしまっていたということであれば、最終的に司法から雇止めが無効であると判断されることがあります。

したがって、どれだけ忙しくても、契約の更新時には、雇用契約書や労働条件通知書を渡す際に、労働者と面談をしてコミュニケーションを図り、会社の経営状況や労働者の勤務状態、更新の有無について認識を共有しておくなどの措置を講じることが大切です。

また、令和6年4月より労働基準法施行規則が改正され、労働条件の明示内容が厳格化されていることにも注意が必要です。

具体的には、有期労働契約の締結時や契約更新時に、労働契約の更新回数の上限がある場合には、その内容を明示する必要があります。

もし、これまで労働契約の更新回数に上限がなかったものの、新たに更新回数の上限を設定する場合や、更新回数を減らそうとするときは、どうしてそのようになるのか理由を労働者に説明を行うことも求められます。

たとえば、「労働者が働いている職場のプロジェクトが終了するから」であるとか、「事業を縮小するから」というように、具体的な説明をするようにしましょう。

また、もともと最初の労働契約の更新回数に上限を設けている場合でも、労働者が希望した場合は、きちんと理由を説明することをお勧めします。

いかがでしょうか。有期の労働契約で働いている労働者は、自分が有期雇用であることを認識していても、心理的には契約の更新を期待してしまうものです。

会社にとっても経営状況が許すのであれば、長く働いてもらいたいはずです。

しかし、経営環境が変化して、有期労働契約の更新ができなくなることも多いに考えられますので、今からトラブルを防止するための備えをしておくことをお勧めします。

特に、労働条件の明示については、専門的な知識が必要になりますのでお近くの社会保険労務士にご相談されてみてはいかがでしょうか。

 

参考資料

 

プロフィール

社会保険労務士 山口善広

ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/

営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。

もし、就業規則の整備やハラスメント防止の周知などでどのように取り組めばいいのか分からない場合は、お近くの社会保険労務士にご相談されることをお勧めいたします。

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