【専門家コラム】パワーハラスメント類型の1つ「個の侵害」。発生原因と解決のポイント

公開日:2024年4月16日

 

パワーハラスメント類型の1つ「個の侵害」。発生原因と解決のポイント


<ごとう人事労務事務所 後藤和之/PSR会員>

厚生労働省指針が示す身体的な攻撃・精神的な攻撃などのパワーハラスメントにおける6類型の1つとして「個の侵害」があります。

厚生労働省資料の中では、「個の侵害」とは『私的なことに過度に立ち入ること』としています。

今回は、なぜ「個の侵害」が起こるのかを掘り下げていきます。

 

パワハラ「個の侵害」に該当すると考えられる例、該当しないと考えられる例

厚生労働省の資料の中で、パワハラに該当すると考えられる例、パワハラに該当しないと考えられる例として、次のような例をあげています。

【該当すると考えられる例】

①労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりする。
②労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報について、当該労働者の了解を得ずに他の労働者に暴露する。

【該当しないと考えられる例】

①労働者への配慮を目的として、労働者の家族の状況等についてヒアリングを行う。
②労働者の了解を得て、当該労働者の機微な個人情報について、必要な範囲で人事労務部門の担当者に伝達し、配慮を促す。

 

「個の侵害」が起こる理由~事実把握に留まらず「介入すること」

厚生労働省資料が示す「該当すると考えられる例」に掲げられているようなことは、当然ながら、最初から意図して行うようなことがあってはなりません。

しかし、意図したものではなかったとしても、結果的にパワーハラスメントになることも考えられます。仕事の指導が行き過ぎるなどが代表例です。

例えば、提出期限を過ぎても書類を提出しない部下がいたとします。

その場合に、上司が次のような①→②→③→④の順で部下に対して指導などを行ったとします。

①上司が、部下へ「仕事の締め切りが過ぎている」と指導する。
②上司が、部下へ「問題の原因が、忙しい時期に年次有給休暇を取得している」と指導する。
③上司が、部下へ「年次有給休暇に何をしているの」と聞く。
④上司が、部下へ「遊びに行ったときの写真を見せて」と要求する。

ここでは、①~④の言動を以下の言葉で定義づけて説明します。

①「仕事の締め切りが過ぎている」→事実把握
②「問題の原因が、忙しい時期に年次有給休暇を取得していること」→原因推測
③「年次有給休暇に何をしているの」→介入開始
④「遊びに行ったときの写真を見せて」→具体的介入

この場合「個の侵害」のリスクが高いのは、『③介入開始』から『④具体的介入』に至った時です。

つまり「忙しい時期に年次有給休暇を取得していること」を上司として部下へ注意をするために、年次有給休暇に関する執拗な介入を通じて、部下へ改善を促そうとする時です。

 

「個の侵害」の予防~介入せずに「問題解決を一緒に考えること」

ここで「介入」という言葉の意味を確認していきます。広辞苑(第七版)では、次のように明記されています。

介入:問題・事件・紛争などに、本来の当事者でない者が強引にかかわること

上司が部下に「年次有給休暇に何をしているの」「遊びに行ったときの写真を見せて」などは介入にあたります。

なぜなら、部下が年次有給休暇を過ごすにあたり、上司はその当事者ではないからです。上司からの要求に対して、部下が応える義務はありません。

まず上司としてやるべきことは、事実を把握し、その事実に基づいて部下を指導することです。

「仕事の締め切りが過ぎている」という事実を部下に対して伝えることです。

しかし、「仕事の締め切りが過ぎている」と伝えても改善できない部下もいるかもしれません。

その場合には「忙しい時期に年次有給休暇を取得している」と推測した原因を手掛かりに、問題解決に向けて、上司と部下が一緒に考えることです。

例えば、年次有給休暇を取得する時季を会社として指定するなどの方法が考えられます。

しかし一緒に考えることで、実は仕事の締め切りが過ぎている原因が、年次有給休暇とは別の理由としてあるかもしれません。

大切なことは「推測した原因」だけに固執しないことです。

「推測した原因」はあくまで手掛かりの1つということです。「推測した原因」だけに固執してしまうと、「そこに介入する」という考えが生まれ、パワーハラスメント『個の侵害』の発端になってしまうからです。

つまり、その固執した考えを断ち切るのが「問題解決を一緒に考える」というプロセスになります。

 

大切なこと~「働きやすい環境は人それぞれ」特定のコミュニケーションを強要しないこと

一方で「年次有給休暇に何をしているの」「遊びに行ったときの写真を見せて」のような会話は、仕事と切り離すことができれば、必ずしも悪いことばかりではありません。職場の雰囲気を良くすることも考えられます。

例えば、次のように人によってその捉え方はそれぞれです。

・仕事仲間から「もし良かったら、遊びに行ったときの写真を見せて」と言われ、とても嬉しかった。今まではその人と話すとすごく緊張していたが、その後は仕事でも意気投合できるようになった。
・私はあまり写真を見せたくないが、仕事仲間が「この前の休みに、遊びに行ったときの写真だよ」という表情がすごく楽しそうで、何か元気を分けてもらえた。
・仕事とプライベートは完全に分けたいので、仕事仲間から「休みは何をしているの」とは聞かれたくない。

これらの捉え方に1つの答えはなく、すべてが正解です。

大事なことは「その人にとって、働きやすい環境がどういうものか」ということ、そして「働きやすい環境は人それぞれ」ということです。

例えば「休みは何をしているの」と聞くことが問題とは一概に言い切れるものではなく、そのようなことを聞かれたくない相手に「休みは何をしているの」と執拗に聞くことが問題となります。

「働きやすい環境は人それぞれ」という意識を持つことができれば、仮にコミュニケーションで行き違うことがあったとしても、早い段階で修正することにつながります。

 

 

プロフィール

後藤和之

ごとう人事労務事務所(https://gtjrj-hp.com) 
社会福祉士・特定社会保険労務士 

昭和51年生まれ。日本社会事業大学専門職大学院福祉マネジメント研究科卒業。
約20年にわたり社会福祉に関わる相談援助などの業務に携わるとともに、福祉専門職への研修・組織内OFF-JTの研修企画などを通じた人材育成業務を数多く経験してきた。
特定社会保険労務士として、人事労務に関する中小企業へのコンサルタントだけでなく、研修講師・執筆など幅広い活動を通じて、“誰もが働きやすい職場環境”を広げるための事業を展開している。

監修:退職後の社会保険と税の手続き(株式会社ブレインコンサルティングオフィス)

 

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