労働時間を変更するときは要注意!? 雇用保険で思わぬ労使トラブルを防ぐ方法とは
<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員>
アルバイトやパートの従業員を雇用されている場合、会社や従業員の都合で所定の労働時間を変更することはよくあります。
お互いが合意して労働条件を変更することは大丈夫なのですが、雇用保険や給与の控除の対応に不備があると、後になってトラブルになることがあります。
たとえば、受け取れるはずだった失業保険が受け取れず、損害賠償を会社に求められるようなケースです。
今回は、そのようなトラブルとなる原因と対処法をご説明しましょう。
そもそも雇用保険の制度とは
雇用保険は、労働者が失業した場合に基本手当(いわゆる失業保険)などを国が支給をして労働者の生活を支える制度です。
これは、正社員のためだけの制度ではなく、アルバイトやパートでも一定の要件を満たす人については、会社が手続きをして雇用保険に加入させる必要があります。
雇用保険の被保険者になる大きな要件としては、「1週間の所定労働時間が20時間以上であること」という条件があります。
もともと週3日勤務で1日の労働時間が6時間で働く契約になっている人が、繁忙期でたまたま週20時間を超えるような場合は雇用保険の対象にはなりません。
しかし、週3日の勤務を週4日に増やす契約に変更した場合、所定労働時間が週20時間を超えますので、会社は、ハローワークに雇用保険の資格取得届の手続きをする必要があります。
と同時に、雇用保険の被保険者となる従業員の給与から雇用保険の保険料を天引きすることになります。
この、ハローワークへの手続きと対象者の給与からの天引きをセットで行わず、片手落ちの状態がトラブルの火種となるのです。
たとえば、もし雇用保険の保険料を給与から天引きしていたにも関わらず、雇用保険の資格取得届の手続きが抜けていた場合、もしその従業員が後日、退職をして基本手当の支給手続きをしようとしても、雇用保険の被保険者の資格取得手続きが行われていないわけですから、労働者の生活を支えるはずの基本手当をもらうことはできません。
そうなると当然、会社側に問い合わせが来ることになります。
会社側は、さかのぼって雇用保険の手続きを行うことはできますが、原則として2年分までです。
退職した従業員が、ハローワークに対し給与明細などで雇用保険料が天引きされていることを証明できれば、その期間に応じた基本手当の支給となる可能性が高くなります。
一方、会社側に対しては、当然2年分の雇用保険料の納付を求められることになりますし、2年以上前の未納となった雇用保険料についても、納付することを勧奨されることになります。
1ヶ月分の雇用保険料だけを見るとそれほどの金額でもないかもしれませんが、塵も積もれば山となりますので注意が必要です。
さて、ここまでは雇用保険の資格取得の漏れについてのお話でしたが、それよりも深刻なのが、資格喪失でのトラブルです。
どういうことなのかお話ししましょう。
所定労働時間を減少させる場合は、雇用保険の手続きと給与からの天引き処理は要チェック!!
1週間の所定労働時間を20時間未満にした場合、雇用保険の被保険者資格を喪失することになります。
ここで一番トラブルになるのが、ハローワークへの雇用保険の被保険者資格喪失の手続きをしたものの、その労働者の給与明細から雇用保険の給与の天引きをストップしなかった場合です。
つまり、公的には雇用保険の被保険者でなくなったものの、会社内では給与の天引きをしていて雇用保険の被保険者である扱いになっているケースです。
働いている従業員からしてみれば、雇用保険料が天引きになっているわけですから、まさか自分が雇用保険の被保険者資格を喪失しているとは思いません。
基本手当の受給期限は、原則として離職日の翌日(被保険者資格の喪失日)から1年となっていますから、その従業員が退職をしたタイミングによっては、基本手当を受け取ることができないという可能性が出てきてしまいます。
そうなると当然、会社側の責任が問われることになりますので、充分注意する必要があります。
ちなみに、65歳以上の従業員が退職された場合は、基本手当ではなく、高年齢求職者給付金といって、一時金が支払われる制度があります。
いわゆる失業保険と呼ばれる基本手当のことは一般的によく知られていますが、65歳以上の方が退職した場合も条件を満たせばお金をもらえる仕組みがありますので、雇用保険と給与天引きの取り扱いには、やはり注意が必要です。
いかがだったでしょうか。
このように雇用保険ひとつ取っても気の遣う業務が発生します。
雇用保険の手続きや給与計算については、お近くの社会保険労務士に任せることも検討されてはいかがでしょうか。
プロフィール
ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/)
営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。