外国人採用と年金の手続き
<コンサルティングハウス プライオ 大須賀 信敬/PSR会員>
現在、日本で働く外国人労働者は約108万人おり、外国人労働者を雇用する企業は約17万社にも及ぶ(「外国人雇用状況の届出状況」平成28年10月末現在/厚生労働省)。日本の企業が外国籍者を採用することは珍しいことではなくなっているようである。ところで、外国籍者を採用する場合、年金の手続き上はどのようなことに注意をしたらよいのだろうか。
◆「基礎年金番号」が分からない外国籍者
企業がフルタイムで働く従業員を雇用する場合、通常は厚生年金へ加入することになり、採用した企業が社員の厚生年金加入の手続きをすることになる。厚生年金は加入対象者を日本国籍者に限定していないので、日本企業が外国籍者を雇用した場合に基準を満たせば、外国籍者が日本の厚生年金に加入を強制される立場となる。
厚生年金の加入手続き用紙である『資格取得届』には「基礎年金番号」を記入することが義務付けられている。「基礎年金番号」とは国の年金制度への加入記録を一元管理するために加入者に割り振られる番号だが、外国籍者の採用時には「基礎年金番号が分からない!」というトラブルが起きやすい傾向にある。このような場合にはどうしたらよいのだろうか。
初めに、採用を予定している外国籍者がこれまでに日本での就業経験が全くない場合には、「基礎年金番号」は分からなくて当然である。日本での就業経験がないということは、日本の年金制度に加入した経験がないので、そもそも「基礎年金番号」が割り当てられていないからである。従って、そのようなケースでは、厚生年金に“新規加入”の手続きを取ればよい。
具体的には、外国籍者の本人確認を適切に行ったうえで、厚生年金の『資格取得届』の「取得区分欄」に初めて厚生年金に加入する者であることを明記することで、“新規加入”の手続きを取ることが可能になる。その結果、その外国籍者に対して新しく「基礎年金番号」が割り振られ、年金手帳も発行されることになる。
なお、外国籍者を採用した場合には、『資格取得届』と一緒に『ローマ字氏名届』を提出する必要がある。住民基本台帳法の改正により、平成24年7月から外国籍者も日本の住民票が作成され、氏名は原則としてアルファベットで表現されることになった。それに伴い、日本年金機構でも外国籍者の年金記録を正確に記録するため、平成25年7月から氏名はこれまでのカナ氏名に加えて、アルファベット氏名を記録するように取り扱いが変更されているためである。そのため、過去に外国籍者を採用したことがある企業の場合には、「以前よりも提出書類が多くなった」という事態に遭遇するので、注意をしたい。
◆「基礎年金番号」は調べてもらえる
次に、採用を予定している外国籍者がすでに日本での就労経験がある場合には、すでにその外国籍者には「基礎年金番号」が割り振られており、年金手帳が発行されているはずである。従って、外国籍者に年金手帳を持参させ、すでに持っている「基礎年金番号」を『資格取得届』に記入し、厚生年金に“再加入”する届け出を行う必要がある。
しかしながら、外国籍者の中には日本での就労経験があるにもかかわらず、自分の「基礎年金番号」が分からない、年金手帳を持っていないというケースも少なくない。なかには、以前発行された年金手帳を日本年金機構に返還しているケースも存在する。そのような場合には、その外国籍者が厚生年金に加入して最後に勤めた事業所の名称と所在地を『資格取得届』の「備考欄」に記入して届け出るとよい。このように届け出ることで、日本年金機構側でその外国籍者の「基礎年金番号」を調べることが可能になるからである。
日本での就労経験があるにもかかわらず年金手帳を所持しておらず、「基礎年金番号」が分からない外国籍者を採用する場合に、絶対に行ってはいけない取り扱いがある。“新規加入”扱いで手続きをすることである。
万一、そのような手続きをした場合、その外国籍者には新たに「基礎年金番号」が割り振られることになるため、本来であれば一人にひとつの番号が割り振られるはずの「基礎年金番号」が、その外国籍者については複数の番号が割り当てられることになる。その結果、その外国籍者の年金加入記録が一元管理できなくなり、外国籍者が加入履歴に応じた適切な年金サービスを享受できなくなるという大きな不利益を被りやすくなるからである。
外国籍者を採用する場合には、「基礎年金番号」の有無で年金の手続き上、トラブルになりやすい傾向にある。このようなトラブルを避けるためには、まずは「日本での就労経験があるのか」をキチンと確認することから始めたい。
プロフィール
コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
「ヒトにかかわる法律上・法律外の問題解決」をテーマに、さまざまな組織の「人的資源管理コンサルティング」に携わっています。「年金分野」に強く、年金制度運営団体等で数多くの年金研修を担当しています。