【専門家コラム】年次有給休暇をめぐるトラブルが急増中!労使トラブルを防ぐカギとは?

公開日:2024年8月27日

 

年次有給休暇をめぐるトラブルが急増中!労使トラブルを防ぐカギとは?


<ひろたの杜 労務オフィス 代表 山口善広/PSR会員>

 

年次有給休暇を取る権利は、言うまでもなく従業員が持つ労働基準法上の権利ですが、企業側にとっては業務運営にかかる人員の配置に関わることであり、業務が適切に運営されるために一番苦労する要素となるため、労使トラブルが発生しやすいと言えます。

企業側には、従業員が年次有給休暇の取得を希望する日に対して、取得日を変更してもらう時季変更権がありますが、無条件に行使できるわけではありません。

従業員と企業側との信頼関係を崩さず良好な職場環境を築くための方策について見てみましょう。

 

企業の持つ「時季変更権」とは?

まず、年次有給休暇(以下、「有休」という)の発生根拠からご説明しますが、従業員が入社して6ヶ月以上連続して勤務し、出勤率が80%であれば、従業員は有休を取得することができます。

この権利は、労働基準法で定められており、法律上当然に発生するので、企業側が認可するものではなく、正社員だけではなく、パートやアルバイトの方にも権利が発生します。

原則として、有休の取得は、あらかじめ従業員が取得したい日を企業側に申し出れば、企業側は拒否をすることはできません。

しかし、従業員が有休を取ることで、「事業の正常な運営を妨げる」場合に、有休取得日をずらしてもらう「時季変更権」が企業側に認められています。

「事業の正常な運営を妨げる」とは、企業の規模や人員の配置状況、従業員の仕事内容にもよりますが、たとえば、週末や月末月初、年末などの繁忙期にネコの手も借りたい、という時期に従業員に一度に休まれると業務が回らない、といった状況が考えられます。

ただし、慢性的な人手不足に陥っていて、いつもギリギリの人員配置で運営している場合は、時季変更権が認められないケースもあります。

さて、従業員の有休と取る権利と企業の持つ時季変更権は、どちらも労働基準法で定められている正当な権利ですが、お互いが権利を主張しあっていたら適正な業務の運営は望めませんし、従業員との信頼関係を築けず、離職者が続出してしまうかもしれません。

では、従業員の有休の希望をできるだけ認め、企業の業務に支障をきたさないようにするにはどうすればいいのでしょうか。

 

労使が有休でトラブルにならないための対策とは?

結論から申し上げると、労使間の「コミュニケーション」と従業員への「教育」がカギとなります。

まず、労使間のコミュニケーションですが、従業員が有休を取得する権利を当然に持っていることを前提に、業務量の情報共有を適切に行うことで、従業員に繁忙期の状況を理解してもらうとともに、従業員間で公平に有休を取ることができるよう、有休に関するモラルを持ってもらう取り組みを行うことが挙げられます。

特に、有休に関するモラルについては、「誰かが休めば誰かが仕事のカバーをする」という「持ちつ持たれつ」の職場環境を醸成し、特定の従業員に負担がかからない運用を目指すことを労使で確認をします。

とは言うものの、従業員自身や家族の急病などにより、急な休暇申請があることも十分考えられます。

そのような事態を想定して、普段から従業員への教育がどれだけできているかがキモとなります。

具体的には、従業員を訓練し、複数の業務を担うことができるようスキルアップさせるのです。

たとえば飲食店で、ホール担当とレジ担当それぞれの仕事しかできない従業員しかおらず、もし、レジ担当が病気になってしまい、急に休むようなことになれば人員を調整するのは大変です。

ここで企業側が「休むなら他の人を探して」と言ってしまおうものなら、労使の信頼関係は一挙に崩れてしまい、従業員の定着率にも影響を与えかねません。

人員配置は、あくまでも企業が責任を持って行うものなので、従業員に押し付けることはできません。

とは言っても、勤務日の当日に穴が空いてしまうリスクは避けられませんから、不足している業務のカバーができる体制を整えておくことが重要になってくるのです。

また、急遽有休の取得を希望する従業員が出た場合に、他の従業員が出勤できるかどうか調整をするためにSNSを活用するのも良いでしょう。

出勤を申し出た従業員に対しては、特別手当を支給する仕組みを導入することで不公平感をなくし、後日、代わりの休日をきちんと与えるといった配慮をすることも大切です。

企業側としては、従業員が出勤している状態が当たり前なのではなく、穴が空いたときの対応をどのようにするのかを常にシミュレーションを行い、リスクを回避することが求められます。

このように、できるだけ時季変更権を使わず、従業員との良好な信頼関係を維持しながら業務が適正に運営ができるような仕組みを作り上げることが、長い目でみた場合に企業の成長も可能になります。

もし、労務管理をどのように構築すれば迷う場合は、お近くの社会保険労務士にご相談されてみることをお勧めします。

 

 

プロフィール

社会保険労務士 山口善広

ひろたの杜 労務オフィス 代表(https://yoshismile.com/

営業や購買、総務などの業務を会社員として経験したのち、社会保険労務士の資格を取る。いくつかの社会保険労務士事務所に勤務したのち独立開業する。現在は、労働者や事業主からの労働相談を受けつつ、社労士試験の受験生の支援をしている。

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