最低賃金改定にともない、企業が今後取り組むべきポイントは
<社会保険労務士たきもと事務所 瀧本 旭/PSR会員>
2019年10月より、地域別最低賃金は例年よりも大幅に上昇した。ここでは、都道府県ごとの金額と、最低賃金のチェック方法について解説するとともに、上昇傾向にある労働賃金に対して今後企業が取るべき対策についても考察していこう。
◆地域別最低賃金は上昇傾向にある
まずは、最低賃金の決定方法を見ていこう。地域別最低賃金は、(1)労働者の生計費、(2)労働者の賃金、(3)通常の事業の賃金支払能力の3点を総合的に勘案して定めるものとされている。これらをもとに最低賃金審議会において議論した上で、都道府県労働局長が決定している。(1)の生計費については生活保護施策との整合性にも配慮されているが、近年では毎年5%程度上昇している。
参考までに、2019年の地域別最低賃金の一部を紹介すると、関東地域では以下のとおり。
都道府県:最低賃金額(2019年の最低賃金改訂前の金額)
・埼玉:926円(898円)
・千葉:923円(895円)
・東京:1,013円(985円)
・神奈川:1,011円(983円)
◆最低賃金の確認方法と企業が取るべき対策とは
最低賃金とは時給額を基準として決められるものなので、月給制で給与を支払っている場合は時給に換算してから確認する必要がある。最低賃金を上回っているか否かの確認方法としては、基本的に、月給額を1カ月の平均所定労働時間数で除すると求められる。ただし、「月給額に含める手当」と「含めない手当」があるので要注意だ。その分類を見てみると、月給額に含める手当としては、基本給、職務給、職能給、役職給などがあてはまる。月給額に含めない手当とは、通勤手当、家族手当、皆勤手当、固定残業手当などを指す。
ちなみに、固定残業手当とは毎月定額の残業代のことだが、最低賃金計算に含めることができないため注意が必要だ。
また、計算に必要な「1カ月平均所定労働時間数」については、通常は年間の労働日数および1日所定労働時間数から求めることができる。例えば、年間264日勤務で1日の就労時間が8時間だった場合の1カ月平均所定労働時間は、以下のようになる。
264日×8時間÷12カ月=176時間
そのほか、歩合制での給与の場合も、先述の月給制と同様に時給換算してからの確認が必要だ。例えば、勤務地が東京都で、基本給20万円、歩合給2万円、1カ月平均所定労働時間176時間、ある月の残業込みの実労働時間が206時間とした場合、以下のようになる。
固定部分→20万円÷176時間=1,136.36円……(1)
歩合部分→2万円÷206時間=97.08円……(2)※
(1)+(2)=1233.44円≧1,013円
上記の計算式では、※別途、残業手当の支給は必要となるが、この就労条件であれば東京都の地域別最低賃金1,013円を上回ることとなる。
地域別最低賃金は毎年10月に改定され、少なくとも、今後数年間は同様の上昇が見込まれている。上記のように歩合給がある場合や、固定残業手当がある場合には注意が必要だ。なかでも特に基本給を抑えて歩合給を手厚くしている企業は、影響を受けることになる。
現在大きな問題となっている人手不足の状況を鑑みると、企業は、今後も続くであろう最低賃金上昇を見越して、賃金のベースアップなどを積極的に検討してもよいのではないだろうか。
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