令和5年の通常国会での施政方針演説において、岸田総理が「従来の年功賃金から、職務に応じてスキルが適正に評価され、賃上げに反映される日本型の職務給へ移行することは、企業の成長のためにも急務」とし、6月までに日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルを示すと述べています。なぜ、日本型の職務給への移行が重要政策となっているのでしょうか? その議論は、政府の「新しい資本主義実現会議」において進められていますが、どのような考え方から、「日本型の職務給への移行」が急務という結論に至るのか、整理してみます。
<第12回新しい資本主義実現会議(令和4年11月10日開催)の議論を整理>
新しい資本主義を実現し、持続的な成長と分配の好循環を達成するため、
労働市場改革として、
(1)労働者に成長性のある企業・産業への転職の機会を与える
企業間・産業間の失業なき労働移動の円滑化
(2)リスキリング(成長分野に移動するための学び直し)のための人への投資
(3)これらを背景にした構造的な賃金引上げ
の3つの課題を同時解決していく必要がある。
↓ 具体的な方向性は……
□構造的賃金引上げを行うため、労働者の立場に立って、企業間・産業間で労働移動したい方は円滑に移動できる労働市場を作り上げる。
□そして、労働者本人の意思を尊重する市場となるよう、労働者が転職・キャリアアップについて相談し、正確な情報を得て転職する、という一連のプロセスを一気通貫で支援する仕組みを官民協力して作り上げる。
□また、労働者自身が主体的にリスキリングの在り方に関与できるよう、企業が支援する体制を整え、政府が支援を行うに当たっても、個人への直接支援を強化する。
□さらに、労働政策として、失業者に対する支援と共に、在職者に対する支援や兼業・副業の促進を強化する。
↓ これらを効果的に実現させるためには……
□ 経験者採用を進めていくためにも、企業側には、個々の企業の実情に応じて、『日本型の職務給への移行』等の賃金の在り方を検討いただきたい。
つまり政府は、
(1)労働者に成長性のある産業への転職の機会を与える労働移動の円滑化
(2)そのための学び直しであるリスキリング
(3)これらを背景とした構造的賃金引上げを実現させたいのですが
企業の賃金制度が、従来からの年功賃金だとそれが適わないので、“職務給に移行してくれ”と要求しているわけです。
職務給とは、簡単にいうと、勤続年数などによらず、仕事の内容と責任の程度によって職務に一定の序列を設け、それに応じて賃金を支払うこととするものです。
職務給がベースになると、中途採用でも、高い賃金が支払われる(=労働移動が円滑になり、賃上げも実現)というわけです。
従来の年功賃金からの脱却は掲げていますが、大企業における新卒一括採用(=職務遂行能力が高いであろう優秀な人材を企業内で育てていく)という仕組みを頭から否定するわけでもなく……そういった考え方とも融合させたいので、『日本型の職務給』が模索されているわけです。
政府は、令和5年6月までに労働移動円滑化のための指針を取りまとめるとしており、そのなかで、「日本企業に合った職務給の導入方法を類型化し、モデルを示す」ということになると思われます。
机上の空論では意味がありません。各企業が前向きに採用を検討したくなるようなモデルを示して欲しいですね。
なお、職務給が注目されると、それに適した雇用システムである「ジョブ型」雇用も注目されるという流れになります(その話題については、景気が悪くなると沸き起こり、良くなると静まるというサイクルがあるようですが……)。
機会があれば、「ジョブ型」のことも取り上げたいと思います。