【専門家の知恵】パターンをつかんで「承認力」をアップする

公開日:2019年3月13日

<メンタルサポートろうむ 李 怜香/PSR会員>

 

 「上司たるもの、部下のよいところをしっかりほめるべし」――そう分かってはいても、実際にはどうやっていいのか分からない、という上司は多いのではないだろうか。そもそも、自分がほめられて育てられていないのだから、無理からぬ話である。また、部下をほめることを心がけてはいるが、いつもワンパターンのほめ方になってしまう、そんな悩みを持つ上司もいるだろう。今回は、そんな悩める上司に、「部下をほめる力」=「承認力」をつけてもらうためのヒントをお送りする。

 

◆ほめるパターンを把握する

「どこをほめたら分からない」、「いつも『がんばってるね』一辺倒になってしまう』、そう感じたら、部下の仕事ぶりをほめる際のほめ方のパターンについて、改めて整理してみよう。

 部下をほめようとする時は誰でも、どれか一つのパターンに偏りがちなものである。これから挙げる複数のパターンを見て、その中に今まであまり使ったことのないパターンがあったら、そのような観点から部下の仕事を見ていなかったということだろう。

 観点を意識するだけで、今まで「ほめるところがない」と思っていた部下のよいところに気付くこともできるし、ほめ方にもバラエティが出てくるはずだ。以下、ほめ方の6つのパターンを記す。


1.仕事への取り組みをほめる
「仕事の道具を丁寧に扱っているね」
「今日も熱心にやってるね」

2.仕事の内容をほめる
「とてもわかりやすい資料だね」
「期待した以上の内容だよ」
「今月も目標達成だね。これで3ヵ月連続だ」

3.スキルをほめる
「Excelの使い方、詳しいんだね」
「お客様に声をかけるタイミングがいいね」

4.進歩をほめる
「先月より、短時間でできるようになったね」
「始めた時よりも、だいぶ要領がよくなってきたね」

5.本人の属性をほめる
「あなただから、こういうたいへんな仕事を頼めるんだよ」
「ベテランの仕事はさすがだね」

6.他の人の言葉を伝える
「お客様から、担当はぜひこれからも◯◯さんで、と言われたよ」
「前の上司と話す機会があったんだけど、いつもがんばってくれて助かる、と言っていたよ」

 こうしたパターンを一つひとつ見ていくと、何かに気付くはずだ。具体的なほめ言葉とは、「いいね」、「さすがだね」以外、ほとんどないのである。どれも、単に“自分が気付いた事実”を伝えているだけだ。しかし、言われた部下にとっては“上司にほめられている”という実感が持てる。

 実際、ほめるのが苦手な人にとっては、人をほめることは、何か白々しい、わざとらしい、照れくさい、と感じることが多いのだが、気付いた事実を伝えるだけならそのような心配はない。

 このようなほめ方は、ほめるというより、「承認する」と言ったほうが適切だろう。冒頭、「部下をほめる力」=「承認力」と書いたのは、このような意味である。

 

◆一方通行ではなく、部下とのコミュニケーションで掘り下げる

 とは言え、あらゆる角度から考えてみても、部下の仕事ぶりがどうも気に入らない、ほめるところが見つからない、という時もあるだろう。ほめるところが見つからなければ、本人に直接尋ねればよい。

「どんなところが大変かな?」
「この仕事で、どういうところを工夫しているかな?」
「うまくいかないのは、どこに原因があると思う?」

 といったように声をかけ、集中して話を聞き、きちんと受け止める。ここでは、自分が話すことだけでなく、「傾聴」の スキルが必要になってくる。

 自分としては物足りないと感じていた仕事ぶりであっても、しっかり話を聞くと、部下なりに考えて仕事をしていたのだと気付くこともある。また、部下の責任だけにはできない、何らかの問題点が見つかることもあるだろう。

「自分の仕事について、上司が関心を持ち、問題があれば考えてくれる」という姿勢を見せれば、部下のモチベーションアップに大きな影響がある。ほめることとは違うが、これはまさに、部下を“承認”しているとということなのである。

 しかしここでひとつ、注意すべきことがある。話を聞いた結果、指導が必要だと思っても、まずは、仕事への取り組みや、率直に話してくれたことを認めてから、直すべき点を伝える、ということである。つまり、「順序」が 大切なのだ。

 指導をする前に、「上司から認められている」という気持ちを部下が持つことによって、時には耳が痛い指導内容であっても、素直に聞き入れやすくなる。

 そしてもちろん、コミュニケーションというのは、話す内容だけではない。話をするときは、まず名前で呼びかける習慣をつけよう。

「◯◯さん、この件なんだけど……」

 このように、当たり前のようだが、名前を呼ぶ、ということだけでも、立派な承認なのである。

「ちょっとそこの君!」
「おい」
などと比べてみれば、印象の違いは明確だろう。

また、
「おつかれさま」
「ありがとう」
「また明日もよろしく」
などの決まったあいさつも、バカにできない。

 こうした職場の基本的なあいさつを、何となく口にするのではなく、きちんと相手の目を見て、はっきり言おう。さらにそこへ、にっこりした笑顔が加われば、効果倍増である。

 

 

プロフィール

社会保険労務士、産業カウンセラー、セクハラ・パワハラ防止コンサルタント 李 怜香
メンタルサポートろうむ(http://yhlee.org)代表
岐阜県生まれ。早稲田大学卒業。職場のコミュニケーション、メンタルヘルス、ハラスメント防止について、ご相談、研修を承ります。15年以上の経験で、法律と心理、双方から中小企業をサポートしています。

 

 

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