副業中の社会保険:
「副業で年金・健康保険はどうなるか?」と問われたら何と答えればよいか
<コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀信敬/PSR会員>
厚生労働省が2018年に『副業・兼業の促進に関するガイドライン』を公表して以降、コロナ禍の影響もあり従業員に副業や兼業を認める企業が増加した。
ところで、従業員が本業と副業の2つの仕事に従事することとなった場合、厚生年金や健康保険についてはどのような扱いになるのだろうか。
今回は、副業・兼業中の社会保険上の取り扱いを整理してみよう。
副業を個人事業で行うのであれば社会保険に変更はない
副業・兼業を行う従業員が気に掛ける事柄のひとつに、「仕事が2つになると、現在、会社で加入している厚生年金や健康保険はどうなるのか」という点がある。
そのため、人事労務部門の担当者が、副業・兼業中の社会保険について質問を受けることもあるだろう。そのとき、何と説明をすればよいだろうか。
副業中の社会保険について従業員に適切な回答をするには、初めに当該従業員がどのような立場で副業・兼業を行うのかを確認する必要がある。副業・兼業のやり方により、社会保険上の取り扱いが異なるからである。
一般的に、副業などは以下のいずれかの形態で行われる。
① 個人事業者・フリーランサーとして働く。
② 他社と雇用契約を結び、従業員として勤務する。
③ 会社を立ち上げ、代表者に就任して経営を行う。
従業員の副業・兼業の形態が①の「個人事業者・フリーランサーとして働く」に該当する場合、公的な年金制度・医療保険制度の加入に変更は生じない。
現在、自社で加入している厚生年金と健康保険に、引き続き同条件で加入し続けることになる。
副業などを個人事業者・フリーランサーとして行う従業員の中には、「個人事業なのだから、国民年金や国民健康保険の加入手続きもするのだろうか?」との疑問を持つ者がいることがある。
しかしながら、社会保険に関する取り扱いが従前と変わることはないので、誤って「市役所で国民年金の加入手続きもするように」などと説明をしないように気を付けたい。
自社と副業先との両方で社会保険に加入することも
次に、②の「他社と雇用契約を結び、従業員として勤務する」に該当する場合である。自社で正規従業員として勤務しながら、同時に他社でパート・アルバイトとして勤務するようなケースが該当する。
この場合は、①の「個人事業者・フリーランサーとして働く」に該当するケースとは、事情が大きく異なる。
他社での勤務状況が社会保険の加入要件を満たすのであれば、他社でも厚生年金と健康保険に加入しなければならないからである。
つまり、自社と他社との2カ所で同時に社会保険加入が求められるのである。
「本業で厚生年金と健康保険に入っていれば、副業では入る必要がない」などの取り扱いは存在しないので、間違わないようにしたい。
また、③の「会社を立ち上げ、代表者に就任して経営を行う」に該当する場合には、自身が立ち上げた会社でも厚生年金と健康保険に加入することが原則となる。
従って、②の「他社と雇用契約を結び、従業員として勤務する」に該当する場合と同様、同時に2社で社会保険に加入しなければならなくなる。
社会保険では、同時に複数の会社で厚生年金・健康保険に加入する勤務形態を「二以上事業所勤務」という。
また、「二以上事業所勤務」を行う加入者を「二以上事業所勤務者」と呼んでいる。副業・兼業を行うことによって「二以上事業所勤務者」に該当した場合には特別な手続きが必要になるため、該当する従業員に適切な指導をすることが不可欠となる。
従業員による『所属選択・二以上事業所勤務届』の提出が必須に
副業などで他社でも社会保険に加入することになる場合、当該従業員が行うべき事項は2点ある。
1番目は、副業・兼業先の人事労務担当者に「現在、別の会社で社会保険に加入中であること」を明確に伝えることである。
会社が「二以上事業所勤務者」を雇用する際は、日本年金機構の年金事務所または事務センターに提出する厚生年金・健康保険の『資格取得届』にその旨を記載しなければならないルールになっているからである。
従業員が行うべき2番目の事項は、自身で「二以上事業所勤務者」に関する届け出を行うことである。
「二以上事業所勤務者」に該当した場合には、厚生年金・健康保険の『所属選択・二以上事業所勤務届』という書類を従業員自身が作成し、自分で日本年金機構の年金事務所または事務センターに提出することが義務付けられている。
この届け出では、就業する2社のうちの一方を社会保険上の「主たる会社」に指定することが求められる。
その結果、「主たる会社」を管轄する年金事務所が当該従業員に関する業務を行う年金事務所となり、また「主たる会社」の加入する健康保険を利用することになるのである。
どちらの会社を社会保険上のメインと定めるかは従業員の自由意志で決定でき、副業先を「主たる会社」に選択しても何ら問題はない。
厚生年金・健康保険の加入者に関する届け出は、ほとんどの場合、会社側に提出義務が課されている。
ところが、『所属選択・二以上事業所勤務届』は従業員に提出が義務付けられている、非常に珍しい書類である。
副業・兼業を行う従業員が手続きを誤らないよう、適切な指導を行っていただきたい。
【参考】
複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き:日本年金機構
https://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/20131022.html
プロフィール
コンサルティングハウス プライオ 代表 大須賀 信敬
(組織人事コンサルタント/中小企業診断士・特定社会保険労務士)
コンサルティングハウス プライオ(http://ch-plyo.net)代表
中小企業の経営支援団体にて各種マネジメント業務に従事した後、組織運営及び人的資源管理のコンサルティングを行う中小企業診断士・社会保険労務士事務所「コンサルティングハウス プライオ」を設立。『気持ちよく働ける活性化された組織づくり』(Create the Activated Organization)に貢献することを事業理念とし、組織人事コンサルタントとして大手企業から小規模企業までさまざまな企業・組織の「ヒトにかかわる経営課題解決」に取り組んでいる。一般社団法人東京都中小企業診断士協会及び千葉県社会保険労務士会会員。