人生100年時代はマルチステージモデルを意識しよう
<株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役 大曲義典 社会保険労務士事務所 所長 大曲義典/PSR会員>
人生100年時代と言われて久しい。できれば100年間を有意義に過ごしたいのが人情だ。
これは誰もが欲することだが、100年という数字を漫然と受け止めるだけでは難しいかもしれない。
というのも、人生後半は気力・体力ともに萎えてくることが一般的だからである。
従って、人生のある時期からは、自分の生き方を冷静に捉え直し、場合によっては行動スタイルや生活習慣を意識的に変えた方がいいのかな、と個人的には思ったりする。
もちろん、それぞれの人生に貴賤があるはずはないから、これは成功・失敗というカテゴリーに属する話ではないのは言うまでもないが。
人生のある部分を切り取って、単純な計算をすると次のとおりだ。20歳で就職し、60歳で定年を迎え、リタイアしたと仮定する。
そうすれば、会社員として仕事に費やす時間は、(8時間/日×260日×40年間=83,200時間)となる。
残業等を加味してないので、実際はもっと長くなるかもしれない。
一方で、60歳から80歳までの期間で計算した自由時間は、(12時間/日×365日×20年間=87,600時間)となる。
さらに長寿の恩恵を受ける人は、さらに自由時間が増えるだろう。
要は、両者ほぼ同じくらいの時間を過ごすことになるわけである。老後の時間が意外に長いと思われた読者も多いのではなかろうか。
ちょっと待てよ!同じくらいの時間といっても、過ごす期間の年齢が違うぞ!片や20歳~60歳という体力・気力ともに充実した期間。
それに引き換え、60歳~80歳の20年間といえば、体力・気力は衰え、認知症を発症しているかもしれない。
場合によってはベッドで過ごしているかもしれぬ。やはり若い頃とは同列に論じられぬ可能性が高そうだ。
将来の年齢は誰も経験したことがない。例えば、30歳の人にとって、60歳・70歳・80歳といった時期を過ごすのは未知の世界なのである。
人間は、過去の経験を基にした正常性バイアスを持っている。将来も、経験した過去と同様のものになると考えてしまうのである。
しかし、このケースではそれは通用しないと思っておかねばならない。
さて、どうしたものか。
【健康寿命と平均寿命の推移】
上図は、内閣府の「令和4年版高齢社会白書」からの引用であるが、平均寿命と健康寿命の経年変化を表わしている。
これによると、男女各々の2019年の健康寿命は、それぞれ72.68歳、75.38歳となっている。
「健康寿命」とは日常生活を自分の意思で自由に送ることができる期間を意味するから、これと「平均寿命」との差異は、言わば「不健康寿命」である。
この「不健康寿命」を生きることはかなり悲惨だ。認知症を発症していたら、周りから手助けが必要となる。意識はしっかりしていても、体力が衰えていたり病気がちであれば、本人のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)は著しく低下することになる。
このように、人生100年時代においては、その言葉に内在する現実を直視しておかないと、こんなはずではなかった、ということにもなりかねない。
筆者は平均寿命を超えて長生きしたいと思っているわけではないが、「健康寿命≒生命が尽きる寿命」を理想としている。
そのためには、健康寿命を早いタイミングから意識しておくことが肝要ではないかと思う。
目論見どおりにいく保証はないが、昔から言われている「ピンピンコロリ」を実現できるようであれば、それが医療保険や介護保険の持続可能性にもつながるのかな、とも考えたりする。
プライベートな事であるが、筆者も行動スタイルや生活習慣を変えつつある。
実践していることのひとつに「ウォーキング」がある。ほぼ毎日1時間~1時間半の時間をかけて、5km前後を速歩している。あまり身体に負荷をかけず、膝や足腰を労りながらの有酸素運動である。
きっかけは、「ロコモーティブシンドローム」なる概念を知ってからである。
これは、2007年に日本整形外科学会が提唱したもので、年齢を重ねることによって筋力が低下したり、関節や脊椎などの病気を発症したりすることで運動器の機能が低下し、立ったり、歩いたりといった移動機能が衰えた状態を指すとされている。
この「ロコモーティブシンドローム」からは寝たきりや要介護状態へ移行する蓋然性が高まるそうである。こうならないよう、いくらかの筋トレをも合わせ、意識的に健康スキームを実践している。
もちろん、バランスの取れた食事やメンタルを健全に保つことも怠らないようにしているつもりだ。
長寿化が進展する中、すでに65歳から69歳の半数以上の人たちが働いているとも言われている
働くことを金科玉条とするわけではないが、これまでの「学業」「就業」「退職後」という年齢区分による人生の3ステージモデルから、年齢に囚われずに「学び」「働き」「遊ぶ」を謳歌するマルチステージの人生モデルが当たり前の時代になっていくのかもしれない。
「少年老い易く学成り難し。一寸の光陰軽んずべからず。」ともいう。あの時のお陰で今の幸せがある、と思える人生を歩んでいきたいものだ。
プロフィール
大曲 義典
株式会社WiseBrainsConsultant&アソシエイツ 代表取締役(http://www.wbc-associate.co.jp/)
大曲義典 社会保険労務士事務所 所長
関西学院大学卒業後に長崎県庁入庁。文化振興室長を最後に49歳で退職し、起業。人事労務コンサルタントとして、経営のわかる社労士・FPとして活動。ヒトとソシキの資産化、財務の健全化を志向する登録商標「健康デザイン経営®」をコンサル指針とし、「従業員幸福度の向上=従業員ファースト」による企業経営の定着を目指している。最近では、経営学・心理学を駆使し、経営者・従業員に寄り添ったコンサルを心掛けている。得意分野は、経営戦略の立案、人材育成と組織開発、斬新な規程類の運用整備、メンヘル対策の運用、各種研修など。