なぜ、自分で選んだ会社を新入社員は数年で退職してしまうのでしょうか
<社会保険労務士法人出口事務所 代表社員 出口裕美/PSR会員>
新入社員は長期間の就職活動を経て、たくさんの会社を調査して、その中から自分で選んだ会社なのに、なぜ、入社して数年で退職することになってしまうのでしょうか。会社はこれから新入社員を採用するときに何に気を付けたらいいのでしょうか。
新卒入社した会社を辞めた理由
日本労働組合総連合会の「入社前後のトラブルに関する調査2022」によると、新卒入社した会社を「離職した」が3割を超しています。【図1】
また、新卒入社した会社を離職した人の離職理由の1位は「仕事が自分に合わない」、2位は「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」、3位は「賃金の条件がよくなかった」とのことです。【図2】
まず、2位や3位の労働条件に関することは、就職活動時に求人票を見ているはずですが、求人票の見方や理解が不足していたのかもしれません。
この離職理由から会社ができることは、求人票に記載されていることを改めて新卒入社する社員に説明し、どういう意味か理解してもらう必要があります。会社にとっていい情報はアピールし、それ以外の情報は説明することをためらうかもしれませんが、その説明をしていれば、このような事態を防ぐことができます。
また、求人票には仕事内容を記載する欄があります。実は、求人票で一番見られている項目であることをご存知でしょうか。求人票で見られている順番は「仕事内容(職種)」→「就業時間・休日等」→「賃金」→「選考等」→「会社の情報」と言われています。
仕事内容に、例えば「一般事務」と書いてあったとしましょう。一般事務ってなんでしょうか。例えば、来客、電話対応、会議資料作成、勤怠管理、給与計算、社会保険手続、OA機器・事務消耗品の管理など具体的に記載した方が、仕事内容をイメージすることが可能です。将来の仕事内容を記載することは困難ですが、例えば、「定型的な総務事務の仕事からスタート。慣れてきたら専門的な業務もお願いします」など、将来のキャリアプランを伝えることは可能かと思います。
次に、1位の仕事が合うかどうかは体験してみないと分かりません。会社としては、例えば、インターンシップなどの就業体験をする機会、昨年入社した先輩の1日の仕事や経験談を伝える機会、職場や工場の見学などをする機会を設けてみてはいかがでしょうか。
【図1】卒業後に最初に就職した会社で、現在も働いているか
【図2】卒業後に最初に就職した会社を辞めた理由
会社を選んだ理由
一方で、新入社員が数年で退職してしまうということは、期待していた仕事と異なるということもあります。新入社員が会社を選んだ理由を見てみましょう。
会社を選んだ理由の1位は「無期雇用(正社員)である」、2位は「業務内容(商品など)に興味があった」、3位は「やりがいのある仕事だ」とのことです。【図3】
これをみると、無期雇用であることを選んでいますので、就職時には長く勤務する予定であったことが分かります。
業務内容(商品など)に興味があって入社したものの自分が希望する仕事ではなかったということもあるかもしれません。希望していた仕事だとしても想像とは違うということかもしれません。例えば先ほどの来客や電話対応が業務だとすると、会社にとっては根幹を支える総務・人事の業務とはいえ、日々の業務が続けば、自分はこのままでいいのだろうかと不安に思うこともあるかもしれません。
そこで、「来客対応が上手になったね」「電話対応の感じがいいとお客様から言われたよ」という上司の一言が大切なのではないでしょうか。新入社員にとって、来客対応や電話対応などは緊張の連続です。上司はきちんと仕事を見ているよということを新入社員に伝える努力は大切です。意識してほめてみましょう。そして、一つの仕事ができるようになったら、次のステージのお仕事をお願いしてみてはいかがでしょうか。
【図3】卒業後に最初に就職した会社を選んだ理由
【図1~3】出典:日本労働組合総連合会「入社前後のトラブルに関する調査2022」
https://www.jtuc-rengo.or.jp/info/chousa/data/20220428.pdf?5970
社員を採用するときに気を付けること
会社はこれから新入社員を採用するときに何に気を付けたらいいのでしょうか。まずは、企業説明会や会社見学会は仕事内容をイメージできるようにすること、また、求人票に記載されていることも本人が理解できるように説明することです。
さらには、インターンシップなどの就業体験を通じて、仕事が自分に合うかどうか体験していただくのがおすすめです。
インターンシップと言っても、企業によって内容は様々です。1日だけで企業紹介やインターン生同士の意見交換という内容もありますが、できるだけ、実際の業務を体験するような機会を設けたり、そこで働く人たちと交流を持てる内容にすることが重要かと思います。よって、インターンシップは少人数でも、中長期(2日以上)に受け入れることをお勧めします。
3年の離職率について、インターン企業入社者の離職が16.5%なのに対して、インターン非参加入社者は34.1%と言われています。【図4】
インターンシップを活用することで、離職率が半分以下になるのであれば、インターンシップのメリットは大きいのではないでしょうか。
【図4】インターンシップの定着効果<1~3年定着率の実態>
【図4】出典:パーソル総合研究所「会社インターンシップの効果検証調査」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/internship_1.pdf
プロフィール
出口裕美
社会保険労務士法人出口事務所 代表社員
(https://www.deguchi-office.com/)
特定社会保険労務士
2004年に社会保険労務士事務所を開業。出産を機に、育児と仕事の両立のためテレワーク(在宅勤務)を開始。2014年に社会保険労務士法人出口事務所に法人化。2017年にテレワーク(サテライトオフィス勤務)を開始。2020年に新型コロナウイルスの取り組みの様子をメディアにて紹介。
経営者と社員が継続的に安心して働ける環境を構築するため、インターンシップ、ダイバーシティ(雇用の多様化)、テレワーク、業務管理システム等を積極的に導入し、また企業への導入支援コンサルタントとしても活動中。