在宅ワークの時間管理
<社会保険労務士法人ステディ 代表社員 瀧本 旭/PSR会員>
新型コロナウイルス感染拡大の影響で急速に在宅ワークが普及している。一方、課題の一つとして労働者の時間管理が挙げられる。
◆はじめに
労働時間の適正な把握のために、会社がしなければならないこととして、次のように定められている。
【始業・終業時刻の確認】
使用者は、労働時間を適正に管理するため、労働者の労働日ごとの始業・終業時刻を確認し、これを記録しなければならない。これは在宅ワークの場合も同様であり、時間管理が不要になるわけではない。労働時間の管理が不要となるのは、労働者ではない者(役員等)である。
【客観的な記録方法】
記録方法について、原則としてタイムカード、勤怠システム等の客観的な記録を求められており、Excelや手書き等のいつでも変更可能な方法での記録は推奨されていない。
【客観性の担保】
実態として、Excelや手書きで労働時間の記録をしている会社も少なくないのではないだろうか。この場合でも、勤怠記録が客観的に見て実態に沿ったものになるような管理をしなければならない。
会社の指示により労働時間を調整・修正したり、みなし残業制度を導入している場合にみなし残業時間を超えないような指示、もしくは超えた場合に何らか不利益な取り扱いをする等、会社の恣意的な判断があってはならない。
◆みなし労働時間制の可否
事業場外労働のみなし労働時間制とは、労働者が業務の全部又は一部を事業場外で従事し、使用者の指揮監督が及ばないために、当該業務に係る労働時間の算定が困難な場合に、使用者のその労働時間に係る算定義務を免除し、その事業場外労働については「あらかじめ特定した時間」を労働したとみなすことのできる制度である。
在宅ワークにはみなし労働時間制を適用できそうだが、みなし労働時間制を適用するためには、次の要件を満たす必要がある。
① 業務が、起居寝食など私生活を営む自宅で行われること。
② 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと。
③ 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと。
(労働基準法 平成16年3月5日 基発第0305001号より)
つまり、PC・スマホなどが常時インターネットに接続されており、そのPC等を通じて業務の指示を行っている場合、みなし労働時間制を適用することができない。昨今の働き方を鑑みるに、在宅ワークにみなし労働時間制適用を適用するのはかなり難しいのではないだろうか。
◆まとめ
育児などの各家庭の事情に対応しやすい(柔軟に時間を有効活用できる)在宅ワークは、人材不足が懸念される企業にとって、女性などの潜在的な労働力確保策として注目されている。また、通勤や移動の時間とストレス削減、これによる生産性向上などのメリットが挙げられる。
一方、原理原則に従って在宅ワークの様子を管理することは、メリットである柔軟性を阻害する恐れもあるだろう。
重要なことは、「実労働時間の正確な記録」「長時間労働の抑制」であり、会社ごと業種ごと、あるいは労働者ごとに適切な対応を検討し、労使双方にとってより良い環境を作っていただきたい。
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