世界的な新型コロナウイルスの感染拡大は、私たちの日常を一変させただけでなく、企業で働く人たちの働き方と意識に大きな影響を及ぼしました。その一つが、職場の概念の劇的な変化です。「職場(実際に多くの社員が通勤してくるリアルな勤務先)=就業場所」ではなく、テレワーク実施時には、個々の従業員の自宅も含め職場と考えなければならなくなりました。昨年の緊急事態宣言以降、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方としてテレワークのニーズが高まってきました。十分な準備もないまま緊急対策として導入した企業では、テレワークできる環境整備だけでなく、離れた場所で働く従業員の勤怠や労働時間をどう管理するか、コミュニケーションの方法など、自社に適切な労務管理方法が課題となっています。テレワーク導入にあたり、検討すべき労務管理のポイントを解説します。
テレワークとは
コロナ禍で起きてきた働く人たちの価値観の変化に、対応する解決策の一つがテレワークです。テレワークは、「ICT(情報通信技術)を活用し、場所にとらわれない柔軟な働き方」を指します。在宅勤務、自社専用のサテライトオフィスや共同利用型のテレワークセンターで業務を行う「サテライトオフィス勤務」、顧客先、移動中、出張先などで業務を行う「モバイルワーク」があります。
テレワークでの労務管理のポイント
労務管理上の注意点は、大きく3点あります。
1つめは、労働時間管理です。テレワーク実施時は、事業場外みなし勤務とすればよいと考えるのは間違いです。PCのログやメールの送受信等で労働時間は把握できるはずだと、最近の労基署の調査で指摘されています。労働時間はリアルタイムで管理できるシステムにし、始業・終業時刻、休憩や中抜け等の時間も記録させます。長時間労働対策として「テレワーク時は、時間外・休日・深夜労働の原則禁止、やむを得ない場合は事前申請・許可制」とするのがよいでしょう。
2つめに、コミュニケーションの問題です。そもそも社会人経験が浅く、問題解決スキルが足りない従業員がテレワークを行うと、求められる業務が遂行できなくなる恐れがあります。自律的・主体的に業務に取り組めるよう、現場ごとに、チャットツールやWEB会議システム等を利用し、定期的な面談等でコミュニケーションを維持し、業務の進捗状況、力量を見たうえで業務を割り当てていくとよいでしょう。
3つめに、従業員のニーズを聞き、自社に合った運用ルールを定めることです。例えば、通常9時~18時までの1日8時間勤務の会社の場合、「テレワーク時は6時~10時の間に勤務を開始、遅くとも21時までには終業とし、その範囲内で8時間勤務すればよい、休憩時間をずらしたり、中抜けしたりしても良い」といった運用にすると、融通が利き、満足度が高くなります。定めたルールは、就業規則やテレワーク規程等に落とし込みます。その際、自然災害、感染症対策等の緊急時に備え、臨時・一時的にテレワーク対象者以外にもテレワークを命じる可能性があることを明記しておくことをお勧めします。
テレワークで新たな労務問題に対応を
①安全配慮としてテレワークを活用
妊産婦については、新型コロナウイルス感染症への感染の恐れに関する心理的なストレスが母体または胎児の健康保持に影響があるとして、主治医や助産師から指導を受け、それを事業主に申し出た場合、事業主は、この指導に基づいて、感染の恐れが低い作業への転換または出勤の制限(在宅勤務・休業)等、必要な措置を講じなければなりません。年次有給休暇以外の有給の休暇制度を整備した場合に利用できる助成金もあります。無理して出社してもらい、新型コロナに感染した場合、感染経路がはっきりしていなくても、政治的な配慮から、業務上と考えて労災認定されるケースも出てきています。妊産婦だけでなく、重症化のリスクの高い高齢者、基礎疾患のある方にも可能な限り配慮していただくとよいでしょう。
②出社日数の変化による通勤手当の扱い
通勤手当を実費精算としている場合、在宅勤務をした日については、本来は通勤手当の支給は必要ありません。在宅勤務の日数が週の3日くらいになる場合には、定期代よりも日ごとの往復交通費支給を検討することもあるでしょう。支給方法を実費精算とのみ就業規則に記載していれば、規則改訂の必要はありませんが、支給方法を「定期代」と特定している場合は、規則改訂の必要があります。
同時に検討すべきことは、在宅勤務で生じる光熱費・通信費等の問題です。会社負担でも従業員負担でも構いませんが、従業員に負担させる場合は、就業規則に従業員負担と明確に規定することが必要です。従業員負担とし、新たに在宅勤務他手当を支給する企業もあります。手当の額についても1日200円程度から1月5000円等、法令上の定めはないため各社が独自に決めているのが実情です。
テレワーク導入で期待できる効果
実際にテレワークを導入した企業では、労働者も企業もさまざまな効果を感じているといった声が上がっています。労働者にとっては、通勤時間の短縮、通勤にともなう精神的・身体的不安の軽減、育児や介護と仕事の両立がしやすいこと、企業側にとっては、資料の電子化や業務改善の機会、通勤費やオフィス維持費などの削減、非常時での事業継続ができ、早期復旧もしやすい、などです。また、場所にとらわれない働き方が可能になれば、通勤圏外からも優秀な人材を採用することも可能になります。新たにテレワーク制度を導入する際は、厚生労働省のリーフレットを確認しながら業務の棚卸し、テレワークできる従業員の範囲、ICT環境の整備等を検討していくとよいでしょう。