【専門家の知恵】休職制度の基礎とメンタル疾患による休職対応で気を付けたいポイントを再確認

公開日:2023年12月7日

<いろどり社会保険労務士事務所 代表 内川真彩美/PSR会員>

今や会社としても欠かすことができなくなったメンタル不調者への対応について、休職制度の基礎とメンタル疾患による休職対応で気を付けたいポイントを解説していきます。

休職制度を設ける場合には就業規則に定めておく

休職は、就業規則の相対的必要記載事項に定められています。相対的必要記載事項とは、就業規則に必ずしも記載しなくとも良いが、会社として制度を設けるなら記載しなければいけない事項です。つまり、休職は必ずしも設けなくともよい制度なのです。とはいえ、休職制度を設けている会社が多いのが現状です。労働基準法にも休職の具体的な定義や休職期間等の定めはありませんので、制度を設ける際には会社独自のルールを決めることとなります。休職と聞くと、私傷病による休職をイメージする方が多いと思いますが、休職できる条件も会社が定めることができます。最近では、留学や大学に入り直すような労働者のスキルアップのための休職制度を設けている会社もあります。

では、休職は欠勤と何が違うのでしょうか。

会社は、労働者と雇用契約を締結しています。この雇用契約は、労働者が会社に労働力を提供する代わりに、会社が労働者に賃金を支払うことを約束したものです。つまり、労働者には、会社に対して業務を遂行する義務が存在しています。

休職は、労働者が長期間にわたり業務遂行できなくなった場合、本来であれば契約に反しているけれども、会社が特別にその義務を免除するものです。一方で欠勤は、労働者の義務は免除されず、義務はあるのに契約に反して労働者が労働力を提供していない状況です。

一見、違いがわかりにくい両者ですが、労働者が労働力を免除されているか否かという違いがあるのです。

休職制度を設けるメリットとは

会社が休職制度を設けるメリットは、「退職を予防できること」です。少子高齢化で人口減少の進む現在は、採用難だと言われています。休職制度があると、何らかの理由で働けなくなった労働者に、働ける状態まで復活する期間を与えることができます。退職も休職も、一時的に人手不足に陥る点では変わりなく見えるかもしれません。ただ、長期的に見たときに、新たな人を採用し教育するのと、休職した人が復職するのとでは、後者の方が採用・教育にかかるコストを削減できます。

一方、労働者にとっては、雇用を継続したまま休めるという「安心感」が大きなメリットです。例えば、長期の治療が必要な場合でも、治癒後の再就職等の不安を抱えずに治療に専念できます。安心して働ける職場は、労働者の意欲向上に、その結果、労働者の定着にも繋がります。

注意点① 休職開始日は明確にする

ここからは、メンタル疾患による休職対応で気を付けたい点を解説します。

休職制度を設けるときには、休職期間が満了しても復職できない場合には自然退職とする会社が多いと思います。この時に問題になりやすいのが、いつから休職が開始されたかが不明だったり、労使で認識に齟齬があることです。開始日が不明なら終了日も決まりませんし、開始日の認識が労使で異なっていると休職期間満了時にトラブルになることは言わずもがなです。

前述の通り、休職とは“会社が“労働者の業務遂行義務を免除する制度です。そのため、就業規則には「会社が休職の命令をすることで開始する」旨を定めておき、休職命令書を本人に書面で交付することを推奨します。この休職命令書には、休職開始日や休職期間といった認識の齟齬が生まれやすい事項を記載します。

実際に、会社から明確な休職命令が出ていなかったことを理由に、休職期間満了による退職を認めなかった裁判例もありますので、休職命令の発令はきちんとしておきましょう。

注意点② 労働者本人の希望だけで復職させない

労働者本人からの復職の申し出は嬉しいものですが、本人の希望だけで復職させることで、再度の休職や復職後のトラブルを招くことがあります。

まず、就業規則には「復職の基準」や「復職時の手続き」を定めておき、復職の基準を満たしたときに復職できるような制度にしておきます。また、復職時には主治医の診断書を提出するよう義務付けておくと良いでしょう。診断書作成にかかった費用を労使のどちらが負担するのかも定めておきます。診断書作成にかかる費用は保険適用外のため安くはありません。不要なトラブルを避けるために、明確にしておきたい事項です。

診断書の提出があったとしても、主治医は必ずしも労働者の仕事内容や職場環境を把握しているとは限りません。また、会社の担当者は医療の専門家ではないため、診断書を出されたとしても復職可否の判断に迷うこともあると思います。そのため、会社の状況を把握している産業医の面談を義務付けることを推奨します。さらに、労働者本人の同意を得れば、会社が主治医からの意見を聞くこともできるため、復職時に予定している業務内容等を伝えた上で、改めて主治医に意見を求めることも有効です。

いかがだったでしょうか。年々増えていくメンタル疾患による休職者。対象者が出たときに慌てずに対応できるよう、今一度、自社の就業規則や対応ルールを確認しておきましょう。

 

プロフィール

いろどり社会保険労務士事務所(https://www.irodori-sr.com/)代表 

特定社会保険労務士 内川 真彩美

 成蹊大学法学部卒業。大学在学中は、外国人やパートタイマーの労働問題を研究し、卒業以降も、誰もが生き生きと働ける仕組みへの関心を持ち続ける。大学卒業後は約8年半、IT企業にてシステムエンジニアとしてシステム開発に従事。その中で、「自分らしく働くこと」について改めて深く考えさせられ、「働き方」のプロである社会保険労務士を目指し、今に至る。前職での経験を活かし、フレックスタイム制やテレワークといった多様な働き方のための制度設計はもちろん、誰もが個性を発揮できるような組織作りにも積極的に取り組んでいる。

 

 

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